「このイラスト、私が描いたものだから著作権は私にあります」
そう言い切ってみたものの、「著作権がある」って、具体的には何を主張できることなんだろう。コピーされない権利のことだろうか。それとも、公開する・しないを自分で決められることだろうか。
実は、著作権という名前の権利がひとつだけ存在しているわけではありません。著作権は、いくつもの権利が集まってできた「権利の束」なんです。今回は、その中身をひとつずつひもときながら、「著作権がある」と言えることで実際に何が言えるのかを、イラストを例に整理していきます。
このテーマを選んだのは、著作権が細かい権利の集まりだと知らない人が多いんじゃないかな、と思ったからです。そんな方たちのために、わかりやすくまとめておきたいと思いました。
著作権は「権利の束」|17条1項と支分権の意味
著作権法の17条1項を読むと、こう書かれています。著作者は、著作者人格権と、著作権(複製権や上映権など、いくつもの権利をまとめた総称)を持つ、と。
最初にこれを知ったとき、「著作権」ってもっと単純な、ひとつの権利のことだと思っていたので、少し意外でした。でも条文を見ると、はじめから「著作権」というひとつの塊ではなく、複数の権利の集まりとして作られているんですね。この、著作権を構成しているひとつひとつの権利のことを「支分権(しぶんけん)」と呼びます。
「支分権」という言葉自体は、あまり聞き慣れないかもしれません。でも、考え方はそれほど難しくないと思います。土地の所有権が「使う」「貸す」「売る」など、いくつもの権能の集まりであるのと同じように、著作権も「コピーする権利」「ネットで公開する権利」「展示する権利」など、行為ごとに分かれた権利の集合体だとイメージしてもらえば十分です。
この「権利の束」という見方を知っておくだけで、「著作権を持っている」という言葉の意味が、ぐっと手触りのあるものに変わってきます。
17条1項を読んで、著作権がこんなに細かく枝分かれした権利の集まりだと知ったとき、「え!そうだったの?」と素直に驚きました。行政書士事務所開業の勉強のためにテキストを読んでいて、初めて知ったことでした。
著作権の支分権一覧|著作者人格権3つ・財産権11の権利を解説
17条1項が定めているのは、大きく分けると「著作者人格権」と「著作権(財産権)」のふたつです。著作権法の18条から28条にかけて、それぞれの中身がひとつずつ定義されています。専門用語が並んでいて身構えてしまいますが、「どんな行為を、無断でされない権利なのか」という視点で見ていくと、そこまで難しくありません。
まずは著作者人格権から見てみます。これは、著作者の精神的な利益を守るための権利で、お金には換算しにくい、いわば「作者の気持ち」を守る権利だと思うとイメージしやすいです。
公表権(18条)
まだ公表していない自分の著作物を、公表するかどうか、するとしたらいつ・どんな形で公表するかを決められる権利です。
氏名表示権(19条)
著作物を公表するときに、自分の名前を表示するかどうか、表示するとしたら実名にするかペンネーム(変名)にするかを決められる権利です。
同一性保持権(20条)
自分の著作物の内容やタイトルを、自分の意に反して無断で改変(変更や切除など)されない権利です。
この3つの著作者人格権は、著作権(財産権)とは違って、他人に譲渡することができません(59条)。作品をどれだけ財産として売買しても、「作った本人の気持ち」を守る部分は、いつまでもその人のもとに残り続けるということなんですね。
この「譲渡できない」という部分を知ったとき、著作者の権利は、こんなにも厚く守られているんだな、と感じました。
ここからは、著作権(財産権)にあたる「支分権」を見ていきます。こちらは著作権法の21条から28条にかけて定義されています。
複製権(21条)
著作物をコピーする、つまり形のあるものとして再製することに関する権利です。印刷やコピー機での複写、データとして保存する行為もここに含まれます。支分権のなかでも、いちばん基本になる権利だと思います。
最初にこの複製権を勉強したときは、「コピーする権利」というくらいの理解で十分だと思っていました。ですが、データとして保存する行為まで含まれると知ったとき、自分がSNSで何気なく画像を保存していた行為も、実は複製権にかかわる場面だったのだと気づき、少し背筋が伸びる思いがしました。
上演権・演奏権(22条)
演劇を上演したり、音楽を演奏したりして、公衆に直接見せる・聞かせることに関する権利です。CDやDVDを再生して聞かせる行為にも及びます。
上映権(22条の2)
映写機やディスプレイを使って、著作物を公衆向けに映し出すことに関する権利です。動画や画像をスクリーンに映し出して見せる行為が該当します。
公衆送信権・公の伝達権(23条)
インターネットやテレビ放送など、著作物を公衆に向けて送信することに関する権利です。イラストや文章をブログやSNSにアップロードして誰でも見られる状態にする、あの行為はまさにここが働く場面ですね。
口述権(24条)
小説など言葉で表現された著作物を、朗読などの方法で公衆に伝えることに関する権利です。
口述権は小説等の言語の著作物のみを対象としているなど、特定の著作物に対してだけ付与されている権利があることが意外でした。言われてみると、「そりゃそうか」という気持ちにもなるのですが。
展示権(25条)
美術の著作物(原作品)や、未発行の写真の原作品を、公衆向けに展示することに関する権利です。絵画そのものを購入しても、著作権を譲渡する契約がない限り、著作権は作者のもとに残ったままなんですね。だから、買った絵を勝手に展示会に出すようなことは、原則としてできません。このあたりは、意外と知られていないのではないでしょうか。
この展示権のくだりを読んだとき、「絵を買った人が、絵をどう扱ってもいいわけではないんだ」と、あらためて気づかされました。所有権と著作権は別物だという話は、頭ではわかっていたつもりでしたが、こうして具体的な条文と結びつくと、理解の解像度がぐっと上がった感覚がありました。
譲渡権(26条の2)
著作物の原作品や複製物を、公衆向けに譲渡することに関する権利です。一度、適法に譲渡されたものについては、その後の転売にまで権利が及ぶわけではありません。
貸与権(26条の3)
著作物の複製物を貸し出す形で公衆に提供することに関する権利です。レンタルショップでのCDやコミックの貸し出しをイメージすると、わかりやすいと思います。
頒布権(26条)
映画の著作物に限って認められる権利で、譲渡と貸与の両方をカバーしています。
翻訳権・翻案権等(27条)
原作を翻訳したり、編曲したり、脚色したり、映画化したりして、新しく創作的に手を加えることに関する権利です。いわゆる二次創作は、この翻案にあたる場合が多いです。
二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条)
自分の作品をもとに作られた二次的著作物を、さらに誰かが利用しようとするとき、原作者にも権利が及ぶというものです。少しややこしいので、後で具体例をもとに説明します。
こうして並べてみると、「著作権」という一言の裏に、こんなにたくさんの権利が隠れていたのか、と感じるのではないでしょうか。
支分権をひとつずつテキストで追いかけていたとき、正直しんどいと感じた時期もありました。似たような名前の権利が並んでいて、何度も混乱しました。それでも、こうして行為ごとに分けて眺めてみると、「著作権がある」という言葉の重みが、勉強する前よりもはっきり感じられるようになった気がします。丸暗記するよりも、ひとつずつ「どんな場面で使う権利か」をイメージしながら覚えるほうが、自分には合っていたように思います。
イラストの著作権で主張できること|支分権の具体例

半年かけて育ててきたオリジナルキャラクター「ジュン」がいるとします。ある朝、見知らぬアカウントが「ジュン」のイラストを投稿していました。名前の表示はなく、色味も少し変えられています。一目見て「これ、私が描いたやつだ」とわかりました。
こういうとき、「なんとなく嫌だ」で終わらせず、「著作権のこの部分が働いている」と言葉にできると、少し冷静になれます。無断で色を変えられているのは同一性保持権、名前が表示されていないのは氏名表示権の話です。そして、無断でコピーされ、ネットに載せられていることには複製権と公衆送信権が働きます。私自身も、下手の横好きでイラストを描きます。自分の描いたものに財産的な価値があるとは思っていませんが、それでも著作権があることで、自分の権利がちゃんと守られているんだな、とあらためて感じます。
数日後、フリマサイトで「ジュン」のアクリルスタンドが売られているのを見つけたとします。投稿していたのとは別の人が、ポーズを変えて作ったもののようでした。これは元のイラストに手を加えた「二次的著作物」にあたります。二次創作自体は悪いことではありませんが、無断でよいわけではなく、ここで働くのが翻案権です。
さらに、そのアクリルスタンドを別の人がイベントでレンタルグッズとして貸し出していたとしたら、貸し出している人にも「ジュン」の作者への了解が必要になります。これが二次的著作物の利用に関する原著作者の権利です。二次創作から派生した利用であっても、根っこにある著作権は消えずに効いている、ということなんですね。最初はイメージが掴みにくかった権利ですが、こう考えると腑に落ちました。
このほか、個展で原画を展示したいなら展示権、原画をコレクターに売りたいなら譲渡権、複製したポストカードを貸し出したいなら貸与権、まだ発表していないラフ画をいつ世に出すか決めるなら公表権が働きます。当たり前のようでいて、ひとつひとつ条文が裏づけてくれている権利なんだな、と思うと少し安心します。
こうして一つの出来事を追いかけてみると、「著作権がある」という一言の中に、こんなにたくさんの「言えること」が詰まっているのがわかります。
振り返り:「ジュン」の著作権者として主張できること
著作者人格権から
- 公表権:まだ公開していない新しいラフ画を、公表するかどうか、いつどんな形で公表するかを自分で決められる
- 氏名表示権:「ジュン」を公表するとき、自分の名前を表示するかどうか、実名にするかペンネームにするかを自分で決められる
- 同一性保持権:「ジュン」を、自分の意に反して無断で色を変えたりトリミングしたりされない
著作権(財産権)から
- 複製権:「ジュン」を無断でコピーすることを禁止できる
- 公衆送信権:「ジュン」をインターネット上で公開できる(言い換えれば、他人が無断でネットに載せることを止められる)
- 展示権:「ジュン」の原画を展示することを許可できる
- 譲渡権:「ジュン」の原画を公衆向けに譲渡できる
- 貸与権:「ジュン」の複製物を貸し出すことができる
- 翻案権:誰かが「ジュン」の二次創作をしたい場合、事前に了解を得てもらう必要がある
- 二次的著作物の利用に関する原著作者の権利:了解を得て創作された二次創作を、さらに別の人が利用したい場合、その人からも了解を得る必要がある
「自分の作品には著作権がある」という感覚は、なんとなく誰でも持っていると思います。でも、それが具体的にどんな場面で、どんな主張につながるのかまでは、意外と整理されていないものです。支分権という切り口で見てみると、自分の作品が守られている範囲が、輪郭を持って見えてくるのではないでしょうか。
このジュンの話を書きながら、自分が創作をしていたときの気持ちを、あらためて思い出していました。「なんとなく嫌だ」で終わらせず、「これは○○権の話だ」と言葉にできること。それだけで、感情が少し整理される気がします。法律の知識は、こういう場面でこそ役に立つものなんだろうな、と思います。
まとめ
- 著作権はひとつの権利ではなく、複数の権利が集まった「権利の束」
- 著作権法17条1項により、著作者には著作者人格権と著作権(財産権)が認められていて、それぞれを構成するひとつひとつの権利を「支分権」と呼ぶ
- 著作者人格権には、公表権・氏名表示権・同一性保持権の3つがあり、他人に譲渡することができない
- 著作権(財産権)には、複製権・公衆送信権・展示権・譲渡権・貸与権・翻案権・二次的著作物の利用に関する原著作者の権利など、行為ごとに分かれた権利が並んでいる
- 「著作権がある」というのは、これらの権利をひとつずつ主張できるという意味で、中身を知っておくと、自分の作品がどこまで守られているのかが具体的に見えてくる
契約書や利用許諾の話になると、この支分権のどれを譲渡するのか、どれを手元に残しておくのか、という話に直結してきます。今回取り上げた支分権は、そのときの土台になる知識です。
これからクリエイターの方の相談を受けるときは、発注者から渡された契約書を一緒に読んで、内容を確認するようなお手伝いをしたいと思っています。行政書士は交渉ごとまではできませんが、相談に乗ることはできます。契約書についても、相談者の方の「これだけは譲れない」という想いに沿った形で修正のお手伝いができるような、良きパートナーでありたいと思っています。
当事務所は、2026年8月下旬に開業を予定しています。大変申し訳ないのですが、開業前の現在は、正式なご相談をお受けすることができません。ただ、開業したあとは、クリエイターの方に向けて契約書のリーガルチェックを行っていく予定です。「自分の作品の著作権、実際どこまで主張できるんだろう」「契約書に何を書いているかわからない」。そんな疑問を、開業したらぜひ聞かせてください。
開業のお知らせは、ホームページとLINEでお届けする予定です。よろしければ、今のうちにLINEのお友達登録をしておいていただけると、開業のタイミングをいち早くお伝えできます。堅苦しい登録ではありませんので、気軽にどうぞ。