フリーランス保護法は一人社長も対象?発注者の3つの義務

「一人で事業をやっているだけだし、さすがにお上もそこまでうるさく言わないだろう」

一人社長として働いている方の中には、そう思っている方も多いのではないでしょうか。

でも、ふとこんな不安がよぎることもあると思います。
「自分がフリーランスや他の一人社長に仕事を発注する側になったとき、この法律は関係あるのだろうか」と。

結論から言うと、一人社長であっても、発注者になった瞬間からフリーランス保護法の義務を負う可能性があります。
「自分は保護される側だから関係ない」と思い込んでいると、知らないうちに違反状態になっているケースも出てきます。

実は少し前から、「著作権だけでなく、取適法やフリーランス保護法でもブログを書きたい」と考えていました。今回はその一つとして、2026年8月の行政書士事務所開業に向けて準備を進める中で学んだ内容をもとに、自分と同じ一人社長という立場の方に向けて、発注者になったときに注意すべき義務を3つに整理してわかりやすく解説します。
記事を読み終えるころには、「自分は何をすればいいのか」「契約書はどう用意すればいいのか」がクリアになるはずです。

目次

フリーランス保護法とは?一人社長も対象になるのか

フリーランス保護法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)の基本

フリーランス保護法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。2024年11月1日に施行されました。
目的は、フリーランスとして働く人が、発注者との取引において不利な立場に置かれないようにすることです。

「フリーランス保護法」という名前だけを見ると、フリーランスを守るためだけの法律というイメージを持つかもしれません。
ですが実際は、「保護される側」と「規制される側」の2つの顔を持つ法律です。

「保護される側」と「規制される側」の2つの顔がある

法律では、仕事を受ける側を「特定受託事業者」、仕事を発注する側を「業務委託事業者」と呼びます。
そして、同じ人・同じ会社であっても、受注する場面では「特定受託事業者」として保護され、発注する場面では「業務委託事業者」として義務を課される、という立場の切り替えが起こります。

一人社長は、まさにこの両方の立場を行き来しやすい存在です。
デザイナーやエンジニア、コンサルタントなど、法人成りしたフリーランスの方は、自分が受注することもあれば、忙しいときに別のフリーランスへ外注することもあると思います。

一人社長(一人法人)は保護対象の「特定受託事業者」に入るのか

「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方となる事業者のうち、以下のいずれかに当てはまる人・法人を指します。

  • 従業員を使用しない個人事業主
  • 代表者以外に役員がおらず、従業員も使用しない法人

つまり、一人社長(従業員なし・役員は自分のみ)は、受注する立場では「特定受託事業者」として保護されます。
「法人だから対象外なのでは」と不安に思う方もいるかもしれませんが、実態が一人で完結している事業であれば、個人事業主と同じように保護の対象になると考えられています。

ここまでは、多くの一人社長にとって安心材料だと思います。
問題は、次の「発注者になったとき」です。
正直なところ、フリーランス保護法の特設サイトを見ても、フリーランス(受注者側)向けの説明がほとんどで、発注者側の目線に立った情報はなかなか見つかりませんでした。自分がこの法律の対象になるのかどうか、わからないまま放置している一人社長の方も多いのではないかと思います。

一人社長が「発注者」になったら要注意|適用される条件を整理

従業員がいない一人社長でも規制対象になるケース

一人社長が誰かに仕事を発注すると、その時点で「業務委託事業者」に該当します。
ここで注意したいのは、「業務委託事業者」と、さらに義務が重くなる「特定業務委託事業者」は別物だということです。

「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者のうち、以下のいずれかに当てはまる場合を指します。

  • 従業員を使用している
  • 法人で、代表者以外にも役員がいる

従業員を雇っておらず、役員も自分だけの一人社長は、この「特定業務委託事業者」には原則として該当しません。

「一人法人以外の法人が委託するなら規制対象」の意味

このルールを整理すると、「従業員のいない一人法人が発注する分には、特定業務委託事業者としての追加義務は原則かからない」ということになります。
中途解除の30日前予告義務や、ハラスメント対策の体制整備義務など、負担の大きい義務の一部は、この「特定業務委託事業者」にのみ課される仕組みになっているためです。

従業員の有無や役員数で線引きされる、というこのルールは、行政書士として学んでいる私自身も最初は少しややこしく感じました。本業の技術には自信があっても、こうした法律の細かい適用条件までは知らない、という方がほとんどだと思います。

「じゃあ、一人社長は発注者になっても何もしなくていいのか」と思うかもしれません。
ですが、それは早合点です。次の章で説明する書面明示義務だけは、従業員の有無にかかわらず、発注者である以上必ず課されます。

契約期間が1ヶ月・6ヶ月を超えると義務が増える仕組み

フリーランス保護法が発注者に課す義務は、①発注者の属性(従業員を使用しているかどうか)と、②契約期間の長さ、という2つの条件の組み合わせで決まります。
関係する義務を一つずつ挙げると、以下の表のとおりです。

No.義務根拠条文発生条件(対象)
1取引条件の書面明示義務3条業務委託事業者であれば全員(従業員の有無を問わない)
260日以内の報酬支払義務4条特定業務委託事業者(従業員を使用、または役員2人以上の法人)
3募集情報の的確表示義務12条特定業務委託事業者
4禁止行為7つ(受領拒否・報酬減額・返品・買いたたき等)5条特定業務委託事業者 + 契約期間1ヶ月以上
5育児介護等との両立への配慮義務13条特定業務委託事業者 + 契約期間6ヶ月以上
6ハラスメント対策の体制整備義務14条特定業務委託事業者 + 契約期間6ヶ月以上
7中途解除等の30日前予告・理由開示義務16条特定業務委託事業者 + 契約期間6ヶ月以上(継続的業務委託)

表の「発生条件」を見るとわかるとおり、従業員のいない一人社長が確実に対象になるのはNo.1の書面明示義務だけです。
No.2〜7は、いずれも「特定業務委託事業者」であることが前提になっているため、従業員を雇っていない一人社長には直接適用されません。

とはいえ、油断は禁物です。
将来スタッフを雇ったり、外注先との契約が長期化したりすると、義務の範囲は一気に広がります。
特にNo.2の60日以内の報酬支払義務は、従業員を一人でも雇えばその瞬間から対象になる義務です。

一人社長が発注者として負う3つの義務

「従業員がいないなら関係ない義務が多い」とわかったところで、油断は禁物です。
一人社長が発注者になるときに知っておきたい義務は3つあります。

私自身、一人で事務所を開業しようとしている身なので、一人社長という働き方には親近感があります。だからこそ、この記事で挙げる義務の線引きは他人事ではなく、自分ごととして調べました。

①取引条件の書面明示義務(今すぐ必須)

仕事を依頼するときは、以下のような取引条件を書面またはメール等の電磁的方法で明示する義務があります。

  • 業務の内容
  • 報酬の額
  • 支払期日
  • 発注者・受注者の名称

「口頭で伝えたから大丈夫」「いつものやり取りだから今さら書面はいらない」という感覚は危険です。
従業員の有無にかかわらず、発注者になった時点でこの義務が発生するという点は、一人社長でも例外ではありません。
先ほどの表のNo.1にあたる義務で、フリーランス保護法の中で一人社長が確実に対象になる義務はこの1つだと考えておくとわかりやすいと思います。

②60日以内の報酬支払義務(従業員を雇った瞬間に必須)

先ほどの表のNo.2にあたる義務です。
報酬の支払期日を、給付を受領した日から60日以内のできるだけ早い時期に定めて支払う義務は、正確には「特定業務委託事業者」、つまり従業員を使用している発注者に課される義務です。
従業員のいない一人社長が発注者になっても、この義務自体は直接には課されません。

とはいえ、「義務ではないから守らなくていい」と考えるのは早計だと思います。
スタッフを一人でも雇えば、その瞬間からこの義務の対象になります。
「相手のフリーランスも同業だから、支払いは少し待ってもらおう」という感覚が習慣になっていると、事業が成長して従業員を雇ったタイミングで、気づかないうちに違反状態になってしまうリスクがあります。

③将来発生しうる追加の義務に備える

一人社長のうちは対象外でも、従業員を一人でも雇った瞬間、あるいは契約が1ヶ月・6ヶ月と長期化した瞬間に、募集情報の的確表示(12条)、禁止行為の遵守(5条)、育児介護等への配慮・ハラスメント対策・中途解除の30日前予告(13条・14条・16条)といった義務が追加で発生します。

「今は関係ないから」で終わらせず、事業が成長する段階で「この契約は今どの義務に当てはまるのか」を確認できるよう、書面明示義務を満たす契約書・発注書のひな形を今のうちから整えておくと安心です。

契約書がないとどうなる?一人社長が陥りやすいリスクと落とし穴

口約束・SNSのDMだけで発注するリスク

一人社長同士の取引では、SNSのDMやチャットツールでのやり取りだけで発注が完結してしまうことがよくあると思います。
スピード感があって便利な反面、後から「言った・言わない」のトラブルになりやすいのも事実です。

本業のスキルには自信があっても、契約書や法律の話になると急に不安になる、という方は少なくないと思います。独立準備をしている私自身、「本当にやっていけるのだろうか」という不安を感じる瞬間があるので、その気持ちは他人事ではありません。そうした苦手意識が、つい口約束で済ませてしまう一因なのかもしれません。

書面明示義務を果たすという意味でも、DMのやり取りだけで済ませず、報酬額・納期・支払期日などを整理した発注書を交わしておくことをおすすめします。

違反した場合の罰則と公正取引委員会の調査

フリーランス保護法に違反した場合、公正取引委員会や厚生労働大臣による調査・指導・勧告の対象になる可能性があります。
勧告に従わない場合は、企業名の公表や命令の対象となることもあります。

いきなり罰則が科されるわけではありませんが、調査が入ること自体が事業の信用に関わるという点は意識しておきたいところです。

下請法(取適法)との違いに注意

一人社長が発注者になる場合、フリーランス保護法だけでなく、取引の内容によっては取適法(旧下請法)が関係してくることもあります。
取適法は、2026年1月の改正で資本金基準に加えて従業員基準(常時使用する従業員数が300人超・100人超など)も追加されました。ただし、この従業員基準は数百人規模の企業を想定したものなので、一人社長が該当することはまずありません。
一方フリーランス保護法は、従業員を1人でも使用しているかどうか、契約期間が1ヶ月・6ヶ月以上かどうかという、はるかに小さい規模を基準に義務が発生します。同じ「従業員基準」という言葉が使われていても、想定している事業規模がまったく違う、という点を押さえておくとわかりやすいと思います。

どちらの法律が自分の取引に当てはまるのかは、判断に迷うポイントだと思います。
複数の法律が絡む場合は、専門家への確認をおすすめします。

まとめ:一人社長が発注者になるときのチェックリスト

この記事で解説した内容を、以下の3点で確認しておきましょう。

  • 発注する取引条件を、書面またはメール等で明示できているか
  • 60日以内の報酬支払義務は従業員を雇った瞬間に必須になることを理解しているか
  • 従業員を雇う、契約が長期化するなど、事業の状況が変わったときに義務の範囲を確認する意識があるか

一つでも「確認できていない」があれば、早めの対応をおすすめします。

開業後に相談受付を開始します

業務そのものはしっかりこなせる方だからこそ、法律や契約書まわりの不安は専門家に任せてもらえたら、と思っています。
一人社長が発注者になる場面での契約書・発注書の整備は、法律の適用範囲を正しく理解したうえで進める必要があり、自己判断だけでは不安が残る場面も少なくありません。

現在、2026年8月の行政書士事務所開業に向けて準備を進めています。
開業後は、フリーランス保護法に対応した契約書・発注書の作成サポートをおこなう予定です。

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フリーランス保護法 3問クイズ
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松井純子行政書士事務所(2026年8月下旬開業に向けて準備中)
https://matsui-firm.com/
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