「フリーランスに仕事を頼んだとき、秘密保持契約を結ぶのを忘れてしまった……」
「もう情報を渡してしまったけど、今から契約書を作っても意味があるの?」
こういう状況、実は珍しくないんです。つい「信頼できる人だから」「急いでいたから」と後回しにしてしまう。気づいたときには、すでに情報を渡し終えていた——というケースも少なくありません。
結論からお伝えします。
秘密保持契約は、業務委託の途中や終了後であっても、相手の同意があれば後付けで締結できます。
ただし、正しい手順で動かないと、いざというときに機能しません。
はじめまして。このブログを書いている私は、現在行政書士事務所の開業準備をしています。実務と法律を一から勉強しながら、「これは知っておいてほしい」と感じたことを記事にしています。
専門家として完成された立場ではありませんが、だからこそ「はじめて知ったときの視点」を大切に、わかりやすく書くことを心がけています。内容に誤りがないよう丁寧に調べていますが、個別の案件については専門家への相談をおすすめします。
この記事では、業務委託における秘密保持契約について、3つのポイントを解説します。
- 秘密保持契約なしで外注した場合の具体的なリスク
- 後付けで秘密保持契約を締結する手順と注意点
- 今後のトラブルを防ぐための契約書整備のポイント
「今すぐ何とかしたい」という方も、「次回からきちんと備えたい」という方も、ぜひ最後まで読んでみてください。
なお、情報漏洩が起きた場合の訴訟対応は弁護士の専門領域です。契約書の作成・リーガルチェックについては、開業後にご相談を承る予定ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
業務委託でNDAなし・秘密保持契約なしのまま外注した場合の3つのリスク
「口頭でちゃんと伝えたから大丈夫」と思っていませんか?
残念ながら、その認識は少し危うい。契約書がない状態でトラブルになると、対処できる手段が一気に狭まってしまいます。具体的に3つのリスクを見ていきましょう。
リスク① 秘密保持契約なしでは情報漏洩が起きても「約束した証拠」がない
「秘密にしてね」と伝えた。でも、書面がない。
この状態でフリーランスが情報を第三者に渡してしまった場合、「そんな約束はしていない」と言われたら、反論する手段がほぼありません。
口頭の約束は法的に「契約」として成立することもあります。ただ、その内容や存在を証明するのが非常に難しいのが現実です。裁判になれば、証拠がない側が不利になります。釈然としませんが、当然といえば当然ですね。
その点、秘密保持契約書があれば、「この情報は秘密として扱う義務があった」という事実を書面で示せます。証拠があるかどうかで、その後の対応力はまったく変わってきます。
リスク② NDA(秘密保持契約書)がないと損害賠償請求の根拠が弱くなる
情報が漏れた。では、損害賠償を請求できるか?
契約書がない場合、「不法行為」(民法709条)を根拠に請求することは理論上は可能です。しかし、不法行為の立証は被害者側が行う必要があり、ハードルが高いです。
一方、秘密保持契約書があれば、「契約に違反した」という債務不履行(民法415条)を根拠に請求できます。違反の事実さえ証明できれば、損害賠償の請求がしやすくなります。
「損害賠償を請求する!」と息巻いても、契約書の有無で、請求の難易度はまったく異なるんです。 法的には根拠となる条文が違うだけでハードルが全然違うのは、私も学習を進める中で知り驚きました。
リスク③ 業務委託の秘密保持契約なしでは再委託先(孫請け)への情報漏洩が防げない
フリーランスが仕事の一部を別の人に再委託している——そんなケースは珍しくありません。
問題は、あなたが直接契約していない再委託先(孫請け)には、秘密保持の義務が及ばないという点です。口頭の約束しかなければ、孫請けへの情報漏洩を止める手立てがありません。
契約書に「再委託先にも同等の秘密保持義務を負わせること」という条項を入れておけば、情報管理の連鎖的な崩壊を防げます。 口頭の約束でここまで約束するのは難しいでしょう。こういった場面こそ、契約書が必要ですね。
リスクを把握したうえで、実際にどう動けばよいのか。次のセクションで具体的な手順を解説します。
業務委託のNDA(秘密保持契約)を後付けで締結する手順
後付けでもNDAは有効に締結できる。まず相手方に連絡する
まず、安心してください。秘密保持契約は、業務委託の開始後・途中・終了後であっても、相手方の同意があれば有効に締結できます。
日本の民法には、契約を締結するタイミングに関して厳格な制限はありません。当事者双方が合意すれば、後付けでも契約は成立します。ガチガチに制度を固めるのが法律ではありません。本当に法律はよくできていますね。
相手方への連絡では、次の点を意識してみてください。
- 責める雰囲気にしない:「契約書を整備させてください」という前向きな姿勢で伝える
- 理由を添える:「社内のコンプライアンス強化のため」など、相手が納得しやすい理由を伝える
- 書面またはメールで依頼する:口頭ではなく、記録に残る形で連絡する
誠実に依頼すれば、ほとんどの場合は応じてもらえます。
後付けで締結するNDA(秘密保持契約書)に盛り込むべき必須6項目
後付けで締結する秘密保持契約書には、以下の項目を必ず含めてください。
① 秘密情報の定義と範囲 どの情報が「秘密」なのかを具体的に定義します。「本契約に関連して開示された一切の技術情報・営業情報」など、曖昧にならないよう明確に記載することが大切です。
② 目的外使用の禁止 開示した情報を、業務委託の目的以外に使用することを禁止する条項です。転用・流用を防ぐための重要な一文ですね。
③ 第三者への開示制限 再委託先を含む第三者への情報開示を制限する条項です。「第三者に開示する場合は書面による事前承諾を要する」と明記します。
④ 秘密保持期間 いつまで秘密保持義務が続くのかを明記します。「契約終了後〇年間」という形で存続期間も定めておくことが重要です(後述)。
⑤ 情報の返還・廃棄義務 契約終了後に、渡した資料・データをどう扱うかを定めます。「返還または廃棄し、その旨を報告する」という条項を入れておくと安心です。
⑥ 損害賠償 秘密保持義務に違反した場合の損害賠償責任を明記します。金額を予め定める「違約金条項」を設けることも可能です。
業務委託契約書に「覚書」で秘密保持条項を後付けする方法もある
すでに業務委託契約書を締結している場合、新たに独立した秘密保持契約書を作る方法と、既存の契約書に「覚書」を追加する方法があります。
| 秘密保持契約書(独立型) | 覚書(既存契約への追加) | |
|---|---|---|
| 使いどき | 新規取引・後付けで全面整備 | 既存契約書に条項を足したいとき |
| メリット | 内容を網羅的に定められる | 既存の契約関係を維持しやすい |
| 注意点 | 既存契約との整合性を確認 | 追加条項が既存条項と矛盾しないか確認 |
どちらが適切かは、既存の契約書の内容によって異なります。判断に迷う場合は、行政書士にご相談ください。
フリーランスがNDA締結に応じない場合はどうすればよいか
もし相手方が秘密保持契約の締結を拒否した場合、それ自体が一つのシグナルです。
この場合、次の対応を検討してみてください。
- やり取りの記録を残す:メールやチャットのログをすべて保存する。万一の際に「交渉した証拠」になります。
- 情報の追加開示を止める:契約が整備されるまで、新たな機密情報の提供を控える。
- 取引を継続しない判断も視野に:リスクが高いと判断した場合は、取引自体を見直すことも経営判断の一つです。
- 弁護士に相談する:相手がすでに情報を悪用している疑いがある場合は、弁護士への相談が必要です。
「契約書がなければ何もできない」ということはありません。できることから一つずつ、丁寧に対処していきましょう。
業務委託のNDA・秘密保持契約書を正しく整備する4つのポイント
今の状況への対処が終わったら、次は「同じ失敗を繰り返さない」体制づくりです。
業務委託における秘密保持契約書を正しく整備するための4つのことを解説します。
ポイント① NDAの秘密情報の定義は「広すぎず・狭すぎず」設定する
秘密情報の範囲設定は、契約書の中で最も重要な部分の一つです。
- 広すぎる定義(例:「当社に関するすべての情報」)→ 相手が何を守ればよいか曖昧になる。有効性が争われるリスクもあります。
- 狭すぎる定義(例:「口頭で秘密と伝えた情報のみ」)→ 守りたい情報が範囲に入らない可能性があります。
理想は「業務委託の目的に関連して開示された技術情報・営業情報・顧客情報であって、開示時に秘密である旨を明示したもの」のように、具体的かつ合理的な範囲で定めることです。参考情報です。個別案件は専門家にご相談ください。
クライアント側とすると、つい広すぎる定義を設定したくなるのもわかります。なるべく多く秘密保持の約束をしておけば安心だと思いますよね。しかし、契約は相手方があっての契約です。お互いにどこまでを秘密とすべきか、きちんとすり合わせることが大事だと勉強の中で感じました。
ポイント② 秘密保持期間と「契約終了後の存続」を必ず明記する
秘密保持義務は、業務委託契約が終わっても続く必要があります。
ところが、契約書に「存続期間」を定めていないと、「契約が終わったから義務も消えた」と解釈されるリスクがあります。
次のように明記しておきましょう。
「本契約に基づく秘密保持義務は、本契約終了後も○年間存続するものとする。」
期間の目安は一般的に1〜3年ですが、扱う情報の機密性や業種によって変わります。適切な期間の設定については、行政書士にご相談ください。なお、これはあくまで参考情報です。個別案件は必ず専門家にご確認ください。
ポイント③ 秘密保持契約書に再委託先への義務を波及させる条項を入れる
フリーランスが仕事を再委託するケースを想定して、契約書には次の条項を入れておいてください。
「受託者は、委託業務を第三者に再委託する場合、当該第三者に対して本契約と同等の秘密保持義務を負わせなければならない。」
この一文があることで、孫請け先への情報漏洩リスクを大幅に抑えられます。逆に言えば、この条項がなければ、フリーランスが誰に再委託しても法的に止められません。詳しくは、行政書士にご相談ください。
意味は、再委託先へも同じ秘密保持義務を負ってもらいますよ、ということです。契約書に入れるだけで守られるなんて、私は契約書の力強さを感じました。
ポイント④ NDA違反時の損害賠償額を予め定めておく
秘密保持義務に違反した場合の損害賠償について、金額を予め定める「違約金条項」を入れることを検討してください。
金額を定めておくメリットは2つあります。
- 抑止力になる:具体的な金額が明示されることで、相手が「違反したら○○万円」と意識しやすくなります
- 実際の損害額の立証が不要になる:損害の証明は難しいことが多いので、予め定めた額を請求できると便利です
契約書で違約金の予定額を定められることを私は知りませんでした。同時に、言われてみれば確かに今までサインしていた契約書に、違約金についての条項があったような気がしました。なんとなくサインしていた私。こういう人間も多いと思うので、フリーランスと契約する際には、一言注意事項として伝えるといいと思いました。
また、インターネット上の無料テンプレートをそのまま使うのは避けてください。 テンプレートは汎用的に作られているため、あなたの業種・取引内容・相手との関係性に合っていない場合があります。必ず専門家に確認してもらうことをおすすめします。なお、違約金の金額設定など個別の判断が必要な事項は、専門家にご相談ください。
まとめ 秘密保持契約は「後からでも動ける」。大切なのは早さです
この記事でお伝えした3つのポイントを整理します。
① 秘密保持契約なしのリスク 口頭の約束では証拠にならない。損害賠償請求の根拠も弱く、孫請けへの漏洩も防げません。
② 後付けで締結する手順 相手方の同意があれば後付け締結は可能です。誠実に連絡し、必須6項目を盛り込んだ契約書を作成します。相手が応じない場合は記録を残し、弁護士への相談も検討してください。
③ 正しい契約書整備のポイント 秘密情報の定義・存続期間・再委託条項・違約金条項の4つを適切に設定します。テンプレートの流用には注意が必要です。
気づいたときが、動き始めるタイミングです。
情報を渡してしまった後でも、できることは必ずあります。不安なまま放置するのが一番よくないので、まず一歩踏み出してみてください。
開業準備中の今だからこそ、ご連絡はお気軽に
このブログを書いているのは、行政書士事務所の開業準備をしながら、契約書実務を一から勉強している私です。
まだ開業前なので、今すぐ契約書の作成をお引き受けすることはできません。正直にお伝えします。
でも、だからこそ——今は時間をかけて、一つひとつの疑問に向き合えます。
「うちの場合はどうなんだろう?」「こんな記事を書いてほしい」「開業したら相談したい」。そんなひとことでも、ぜひ問い合わせフォームから送ってください。開業準備の参考にもなりますし、ご連絡いただいた方には、開業のお知らせを真っ先にお伝えします。
開業後に対応予定の業務
- 秘密保持契約書(NDA)の新規作成
- 業務委託契約書への秘密保持条項の追加(覚書作成)
- 既存の契約書・テンプレートのリーガルチェック
- フリーランス・外注先向けの契約書一式の整備
なお、情報漏洩に伴う損害賠償請求・差止め請求などの訴訟対応は弁護士の専門領域です。その場合は弁護士へのご相談をおすすめします。