2026年1月、「取適法(中小受託取引適正化法)」が施行されました。
「うちの会社、対象になるのかな?」「従業員数って、どこまで数えればいいの?」——そんな疑問を持って、このページにたどり着いた方も多いのではないでしょうか。
取適法では、これまでの資本金基準に加えて、新たに従業員数基準が導入されました。これにより、資本金が小さくても従業員数が多ければ規制対象になる可能性があります。でも、「従業員数」の定義は意外とやっかいで、派遣社員・パート・育休中の社員をカウントするのか、いつの時点で判断するのかなど、実務で迷うポイントが多いのが現実です。
この記事では、取適法の勉強を続けながら行政書士事務所開業準備を進めている私が、「常時使用する従業員」の定義と数え方を3つのポイントに整理してわかりやすく解説します。
この記事を読むと、次のことが確認できます。
- 自社の従業員数を正しくカウントできるようになる
- 取適法の対象になるかどうか、自分で判断できるようになる
- 取引先への確認が必要かどうかもわかる
法律の条文はむずかしく感じるかもしれませんが、できるだけかみ砕いて説明しますので、ぜひ最後までお読みください。
取適法の「従業員数基準」とは?資本金基準との違いと対象範囲
取適法(中小受託取引適正化法)とは|下請法から何が変わったか
取適法は、2026年1月1日に施行された、下請法の改正・発展版にあたる法律です。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」といいます。長い。
「発注する側(委託事業者)」が「受注する側(中小受託事業者)」に対して、不当に安い代金を強いたり、支払いを遅らせたりすることを防ぐのが目的です。
勉強していて思うのは、こういう法律って「当たり前のことを当たり前にやりましょう」という内容が多い、ということです。でも、それが守られていなかったから法律で明文化されたわけで。守られていなかった現実があるというのは、受注側にとってはかなりつらい話だと思います。
従業員数基準が新設された理由|資本金基準だけでは不十分だった背景
従来の下請法では、資本金の金額だけで対象かどうかを判断していました。しかし資本金が少なくても、実態として多数の従業員を抱える大規模企業が存在します。そういった企業が「対象外」になってしまう抜け穴を塞ぐために、従業員数基準が新設されました。
「資本金は少ないけど、従業員は300人以上います」という会社も、取適法の対象になり得る。なるほど、そういうことか、と思いました。資本金だけで判断していた従来の基準には、確かに穴があったんですね。
資本金基準と従業員数基準の関係
重要なポイントを先に押さえておきましょう。
資本金基準と従業員数基準は、どちらか一方を満たせば対象になります。
両方を満たす必要はありません。どちらか片方でも条件に該当すれば、取適法上の「委託事業者」として義務が発生します。
「どちらか一方でいい」というのは、対象の網を広げる方向の設計です。「うちは資本金が少ないから大丈夫」と思っていた会社が、従業員数で引っかかることもある。自社の状況をきちんと確認することが大事だと改めて思います。
【ポイント1】取適法の「常時使用する従業員」の定義と正しい数え方
「常時使用する従業員」の定義|1か月超の継続使用が基準
取適法では、従業員数の判断に「常時使用する従業員」という概念を使います。
公正取引委員会のQ&Aによると、「常時使用する従業員」とは、その事業者が使用する労働者(労働基準法第9条に規定する労働者)のうち、「日々雇い入れられる者で、1か月を超えて引き続き使用されない者」を除いたすべての労働者を指します。
つまり、1か月を超えて継続して使用されるかどうかが判断の基準です。日雇い労働者でも1か月を超えて使い続けているなら対象になります。
また、従業員数のカウントは頭数を数えるのではなく、その事業者の賃金台帳の調製対象となる労働者の数によって算定します(公正取引委員会Q8)。
「賃金台帳ベース」というのは、正直最初に見たときに「そういうカウントの仕方をするんだ」と少し驚きました。でも確かに、実態として何人いるかを客観的に把握するには、賃金台帳という公的な書類を基準にするのが合理的ですね。
パート・アルバイトも、1か月を超えて継続的に使用していれば含まれます。雇用形態の名称ではなく、継続使用の実態で判断するのがポイントです。
なお、グループ会社の従業員は含まれません。従業員数は事業者単位で判断するため、親会社・子会社・関連会社の従業員は自社の人数に加算しません(公正取引委員会Q7)。これも誤解しやすいところだと思います。
派遣・パート・役員は含む?従業員数のカウント対象一覧
ここが実務で最も迷うところです。整理すると次のようになります。
✅ カウントする(従業員数に含まれる)
| 区分 | 説明 |
|---|---|
| 正社員 | 雇用期間の定めなし。基本的に全員対象 |
| 契約社員 | 有期雇用でも1か月超えて継続使用していれば対象 |
| パート・アルバイト | 1か月を超えて継続的に使用している場合は対象 |
| 長期出向受入社員 | 自社で指揮命令して継続使用している場合は対象(※出向元との関係で判断が分かれる場合あり) |
| 育休・産休中の社員 | 雇用関係が継続しているため原則対象 |
❌ カウントしない(従業員数に含まれない)
| 区分 | 説明 |
|---|---|
| 派遣社員 | 雇用主は派遣元企業。自社との直接雇用関係がない |
| 業務委託・フリーランス | 雇用契約ではなく請負・委任契約のため対象外 |
| 役員(取締役・監査役など) | 雇用関係ではなく委任関係のため原則対象外 |
| 短期アルバイト(臨時・単発) | 1か月以内の使用にとどまる場合は対象外 |
| グループ会社の従業員 | 事業者単位で判断するため対象外 |
カウントの判断に迷いやすいケース|出向・育休・役員の扱い
出向社員
出向先で指揮命令を受けて継続的に働いている場合、出向先の従業員数にカウントされる可能性があります。一方、出向元は雇用契約を維持しているため、出向元でもカウントされる場合があります。二重カウントになるケースも想定されるため、個別の状況に応じた確認が必要です。
長期休職・育児休業中の社員
育休・産休・傷病休職中であっても、雇用契約が継続している限りは従業員数に含まれると考えるのが一般的です。「今は働いていないから除外」とはなりません。
これは少し意外でした。働いていない人もカウントされるのか、と。でも雇用契約が続いている以上は「使用している」という扱いになるわけで、制度の一貫性としては理解できます。
取締役(役員)
取締役は会社と「委任契約」の関係にあり、雇用契約ではありません。そのため原則として従業員数のカウント対象外です。ただし、使用人兼務役員(例:取締役営業部長など、実態として労働者としての側面を持つ役員)については、実務上の判断が分かれる場合があります。
【ポイント2】取適法の300人・100人基準とは|取引の種類別の判断フロー
取引の種類によって異なる従業員数の基準|一般は300人超・IT・デザインは100人超
取適法の従業員数基準は、取引の内容によって「300人」と「100人」の2段階があります。
| 取引の種類 | 委託事業者の従業員数基準 |
|---|---|
| 製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託(一般) | 300人超 |
| 情報成果物作成委託・役務提供委託のうち政令で定めるもの(ソフトウェア業、情報処理業、デザイン業など) | 100人超 |
ITやデザイン関係の仕事を外注している会社は、従業員101人以上で対象になり得ます。「うちは300人もいないから大丈夫」と思っていた会社が、業種によっては対象になるケースがある。これは知っていないと見落としそうです。
「ちょうど300人」「299人」はどう扱われるか
条文上の基準は「300人を超える」です。つまりちょうど300人はギリギリ対象外、301人以上が対象になります(100人基準の場合も同様で、101人以上が対象)。
ただし、従業員数は変動するものです。「今は299人だから安心」と油断せず、定期的な確認が必要です。
自社が委託事業者か・中小受託事業者かを判断するフロー
YES → Step2へ
NO → 委託事業者には該当しない
製造・修理・一般役務 → 従業員300人超?
IT・デザイン等 → 従業員100人超?
→ 取適法上の「委託事業者」として義務が発生する
委託先が「中小受託事業者」に該当する場合のみ取適法が適用
【ポイント3】取適法の従業員数はいつ時点で判断するか|判定タイミングの基本
判定タイミングの基本|委託した日の従業員数で決まる
「従業員数の定義はわかった。でも、いつの時点で数えればいいの?」
これも実務でよく出る疑問です。
公正取引委員会の考え方によると、取引を行う時点(委託をする時点)における従業員数を基準に判断するのが原則です(Q10)。「昨年の従業員数が基準」「年度末の数字で判断」といった固定的なルールではなく、委託するたびにその時点の人数を見る、という考え方です。
委託後に従業員数が増減した場合、取適法の適用はどうなるか?
判定は「委託した日の従業員数」だけで決まります。その後に人数が変わっても、その委託についての判定は変わりません(公正取引委員会Q11)。
- 委託した日に従業員105人 → その後95人に減っても → その委託は対象のまま
- 委託した日に従業員95人 → その後110人に増えても → その委託は対象外のまま
この点、最初は「えっ、それでいいの?」と思いました。でもよく考えると、委託した時点のルールで双方が動いているわけなので、後から遡って変えるほうが混乱するんですよね。制度として筋が通っています。
実務上の賃金台帳活用(Q12)
委託した瞬間の従業員数を正確に把握するのは現実的でない場合もあります。そのため、公正取引委員会は以下の実務的な取扱いを認めています。
前々月(N-2月)の賃金台帳で把握した従業員数を、当月(N月)の委託時の従業員数として使用してよい
例えば10月に委託する場合、8月分の賃金台帳(9月末日までに調製済み)の人数を使って判断することができます。これは実務担当者には助かる運用だと思います。
取引先の従業員数の確認方法|義務はあるか・記録の残し方
取引先の従業員数を確認する法律上の義務はありません(公正取引委員会Q13)。賃金台帳の閲覧や写しの取得も必須ではありません。
ただし、従業員数の変動が多い取引先や、基準付近の取引先に委託する場合は、積極的にコミュニケーションを取って確認することが望ましいとされています。
確認する場合、書面または電子メール等の記録に残る方法が望ましいとされています(公正取引委員会Q15)。具体的な方法としては次のようなものがあります。
- 見積依頼書に確認欄を設ける(例:「従業員数が300人を超える場合はチェックを入れて返送してください」)
- 見積書の備考欄に従業員数の記載を求める
- 帝国データバンク・東京商工リサーチなどの信用調査機関のデータを参照する
「記録に残る方法が望ましい」というのは、後でトラブルになったときの証拠として大事なんだと思います。口頭でやりとりしていると、言った言わないの話になりかねない。
なお、受注側(取引先)にも従業員数を説明する法律上の義務はありません(公正取引委員会Q16)。ただし、確認を求められた場合は適切に対応することが求められています。
取引先が従業員数を誤って申告した場合、委託事業者はどうなるか?
「取引先が『うちは99人です』と言っていたのに、実は101人だった」——そんな場合の責任はどうなるのでしょうか。
公正取引委員会のQ&A(Q14)によると、委託事業者が取引先に従業員数を確認したにもかかわらず、取引先が事実と異なる回答をしたために取適法の適用がないと誤認して違反となった場合、必要に応じて指導・助言を行うことはあるが、直ちに「勧告」の対象とはならないとされています。
ただし、これはあくまで「確認を行ったうえで誤情報を得た」場合の話です。何も確認せずに誤認した場合は保護されません。確認した日時・方法・相手の回答内容を書面や電子記録で保管しておきましょう。
まとめ|取適法の従業員数定義、3つのポイントを確認しよう
この記事で解説した3つのポイントを振り返ります。
- ポイント1:「常時使用する従業員」は1か月超の継続使用で判断する。賃金台帳ベースでカウント。グループ会社・派遣・業務委託・役員は原則カウント外。
- ポイント2:基準は300人超または100人超(取引の種類による)。「ちょうど300人」は対象外。
- ポイント3:判定は委託した日の従業員数で決まり、その後の変動は関係ない。実務上は前々月の賃金台帳の数字を使える。確認義務はないが、記録を残すことが望ましい。
勉強しながら記事を書いていて、取適法の「従業員数定義」は思ったより奥が深いと感じました。「パートは含む?」「派遣は?」「いつ時点で数えるの?」——一つひとつ調べてみると、それぞれにちゃんとした答えがある。でも自分で調べてまとめるのは、正直かなり手間がかかります。
「自社が対象かどうか、正直まだよくわからない」という方は、一人で抱え込まなくて大丈夫です。
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