精神障害者保健福祉手帳を勧められたけれど、どうしても踏み切れない。そういう方が「デメリット」で検索して、この記事にたどりつかれるのだろうと思います。
割引や控除が受けられることは、調べればすぐにわかります。それでも申請しないのは、金額の問題ではないからです。障害者と認定されることへの抵抗、家族や職場に知られる不安、将来なにか不利になるのではないかという漠然とした心配。そちらのほうが、よほど重い。
先に結論をお伝えします。精神障害者保健福祉手帳のデメリットは、診断書の費用と2年ごとの更新の手間の2つだけです。 よく心配される「周囲に知られる」「仕事で不利になる」「保険に入れなくなる」といったことは、実際には起こりません。
なぜそう言えるのか、ひとつずつ見ていきます。
手帳を持っていることが、周囲に知られることはありません
これが最も多い心配でしょう。結論からいえば、知られません。
市から職場や学校へ通知がいくことはありません。持っているだけで誰かに伝わるような仕組みも、どこにもありません。住民票や戸籍に記載されることもありませんし、健康保険証に印がつくこともありません。
手帳は、財布や引き出しにしまっておく一枚のカードです。使うかどうかは、そのつどご自身で決められます。バスで見せる、携帯ショップで見せる、それ以外の場面では出さない。そういう使い方で何の問題もありません。
家族に知られたくない場合も、方法はあります
同居のご家族に知りたくないという事情がある方もおられます。
手帳は郵送ではなく、窓口で受け取ります。ですから、家に届いて見つかるということは起こりません。申請の段階で気になることがあれば、窓口にその旨を伝えておけば配慮してもらえます。
制度というのは、こういう細かいところまでは案内に書かれていないものです。聞いてみれば対応してもらえることが、案外あります。
勤務先に報告する義務はありません
一般枠で働いている方が、手帳を取ったことを会社に伝える義務はありません。伝えるかどうかは、ご自身の判断です。
ただし、ひとつだけ注意点があります。年末調整で障害者控除を受ける場合は、会社に申告することになります。申告書に記入して提出するわけですから、経理の担当者には伝わります。
会社に知られずに控除を受ける方法
年末調整では申告せず、確定申告でご自身で手続きするという方法があります。
控除の額は変わりません。所得税の障害者控除は27万円(1級の方は40万円)で、年末調整で受けても確定申告で受けても同じです。手間は少し増えますが、会社を経由しない分だけ、知られる経路がなくなります。
確定申告というと身構えてしまいますが、給与所得者が控除を1つ足すだけなら、それほど複雑な作業ではありません。
就職・保険・住宅ローンで不利になることはありません
就職・転職への影響
手帳を持っていること自体が、どこかに登録されて共有されるような仕組みはありません。応募先の企業が調べて知ることは、まずできません。
提示するかどうかは、応募のたびにご自身で選べます。障害者雇用枠で応募するときには提示しますが、一般枠で応募するなら出す必要はありません。
生命保険・医療保険への影響
保険の加入時に聞かれるのは「病気の状態」です。手帳の有無ではありません。
ここは冷静に考えていただきたいところで、手帳がなくても、通院していれば告知の対象になります。 つまり、保険加入のハードルを作っているのは通院の事実であって、手帳ではありません。
手帳を取ったことで新しく不利になる要素は生じない、というのが正確な理解です。
住宅ローンへの影響
住宅ローンで問われるのは、収入の安定性と団体信用生命保険への加入可否です。ここでも見られるのは健康状態であって、手帳の有無ではありません。
障害者雇用枠しか選べなくなる、ということもありません
これも誤解されやすいところです。
手帳を持っていても、一般枠に応募できます。手帳は応募できる範囲を狭めるものではなく、障害者雇用枠という選択肢を追加するものです。
障害者雇用枠では、通院への配慮、業務量の調整、勤務時間の相談といったことを、あらかじめ前提として話せます。一般枠では切り出しにくいことを最初から共有できる。この違いは、働き続けられるかどうかに直結します。
その枠を使うかどうかは、そのときの体調と状況で決めればいいことです。使わない年があってもかまいません。
いらなくなったら返せます
一度取ったら一生ついてまわる。そう思って申請をためらう方がおられますが、そうではありません。
有効期間は2年です。2年ごとに更新の手続きをし、更新しなければそのまま失効します。体調が回復して必要なくなれば、自分から市の窓口に返すこともできます。
入り口も出口も自分で決められる制度だ、と考えていただいて差し支えありません。「合わなかったら返せばいい」と思えば、申請のハードルはずいぶん下がるのではないでしょうか。
本当のデメリットは、この2つです
ここまで否定ばかり並べてきました。実際に負担になる部分も書いておきます。
診断書の費用がかかります
手帳の申請には主治医の診断書が必要で、作成料は保険がきかず全額自己負担です。金額は医療機関によって異なります。
これが、手帳を取るうえでの実質的に唯一の出費です。
なお、すでに障害年金を受給している方は、診断書のかわりに年金証書の写しで申請できます。この場合、費用はかかりません。
2年ごとに更新の手間があります
更新のたびに、また診断書が必要になります。体調が優れない時期に手続きが重なると、それなりの負担に感じられるはずです。
期限を切らすと割引や控除が使えない期間が生じますので、管理も必要になります。有効期限の3か月前から更新できますので、カレンダーに入れておいてください。
それでも取ったほうがいい、と言える理由
デメリットが費用と手間の2つだけだとすると、あとは受け取れるものと釣り合うかどうかの問題になります。
まず、全国どこでも共通して受けられるものがあります。所得税と住民税の障害者控除は毎年効きますし、2025年4月からは鉄道運賃が5割引になりました。NHK受信料の減免や携帯電話の割引もあります。
そのうえで、金額として一番大きくなりやすいのが交通費です。お住まいの市町村によっては、バスの無料乗車証や運賃の助成が用意されています。内容は自治体ごとにかなり違いますので、一度お住まいの窓口で確認してみてください。
たとえば尼崎市の場合、市内のバスが1級から3級まで無料になります。週に1回通院していて往復の運賃が500円だとすると、ひと月で2,000円、年間では2万6,000円ほどです。ここに買い物や役所の手続きが加われば、金額はさらに増えます。診断書代は、これだけで回収できてしまう計算になります。
こうした地域独自の支援は、調べないと出てこないものがほとんどです。全国向けの記事には載りませんし、市の広報でも大きくは扱われません。取るかどうかを決める前に、お住まいの市町村で何が受けられるのかを一度確かめておかれることをおすすめします。
尼崎市にお住まいの方は、精神障害者保健福祉手帳のメリットとデメリット【尼崎市版】に受けられる支援をすべてまとめてあります。
「障害者」という言葉に、抵抗を感じる方へ
制度の話とは少し離れますが、触れておきたいことがあります。
手帳の申請をためらう理由として、金額でも手間でもなく、「障害者と認められること」そのものへの抵抗を挙げる方がおられます。自分はそこまでではない、認めてしまったら戻れない気がする、という感覚です。
この気持ちは、理屈で解消できるものではないだろうと思います。制度上こうです、と説明したところで、納得の問題ではないからです。
割引や控除の一覧をまとめることはできても、私にはこの部分にだけ答えが出せませんでした。「取ったほうが得ですよ」と言うのは簡単です。でも、迷っている理由がお金ではないのなら、その答えは何も解決していません。
ただ、ひとつだけ言えることがあります。手帳は、その人がどういう人かを決めるものではありません。制度を使うための鍵にすぎません。 鍵を持っているからといって、その人の中身が変わるわけではない。使いたいときに使い、必要なくなれば返す。それだけの道具です。
制度は、必要な人に届いてはじめて意味を持ちます。使えるものを使わずに我慢することが、何かの証明になるわけでもありません。
よくある質問
手帳を持っていると、選挙権や資格に影響はありますか
ありません。手帳の有無で権利が制限されることはありません。
子どもの就学や進学に影響しますか
保護者が手帳を持っていることが、お子さんの進学に影響することはありません。
手帳を返したあと、また申請できますか
できます。返還したことが不利に働くこともありません。
等級が下がることはありますか
更新のときに、状態に応じて等級が変わることはあります。上がることも下がることもあります。
手帳を持っていると、運転免許に影響しますか
手帳の有無そのものは、免許の可否と直接結びついていません。免許の判断は、病状や服薬の内容に応じて別の基準で行われます。心配な点があれば、主治医にご相談ください。
まとめ
- 周囲に知られることはありません。市から職場や学校へ通知はいきません
- 勤務先への報告義務はありません。確定申告を使えば会社を経由せず控除を受けられます
- 就職・保険・住宅ローンで、手帳の有無が理由で不利になることはありません
- 障害者雇用枠しか選べなくなる、ということもありません
- いらなくなれば返せます。更新しなければ2年で失効します
- 本当のデメリットは、診断書の費用と2年ごとの更新の手間の2つです
申請でお困りのときは
尼崎で行政書士事務所を運営しています。
障害者手帳の申請サポートとして、申請書類の作成から窓口への提出までをお引き受けします。ご家族に頼みたくない事情がある方も、市役所へ足を運ばずに申請を終えることができます。
迷っておられる段階でのご相談で構いません。話してみて、やっぱり今は取らないという結論になっても、それはそれでいいのだと思います。
まずは無料相談から
あわせてお読みください
- 精神障害者保健福祉手帳のメリットとデメリット【尼崎市版】|等級別にわかる支援の全部
- 精神障害者保健福祉手帳の申請方法【尼崎市版】|必要書類・窓口・代行できる人
- 手帳・障害年金・自立支援医療は何が違う?【尼崎市版】|混同しやすい3制度を整理
参考にした主な情報源
- 尼崎市公式ホームページ「精神障害者保健福祉手帳」
- 尼崎市公式ホームページ「障害者等乗合自動車特別乗車証の交付」
- 国税庁「障害者控除」
※制度の内容は変更されることがあります。実際のお手続きの前に、各窓口で最新の情報をご確認ください。