フリーランス法(フリーランス新法)が施行されてから、そろそろ2年になります。「うちも対応しないと」と思いつつ、今の契約書や発注書のどこを直せばよいのか、自分で手を入れるか専門家に頼むか、決めきれずにいる発注担当の方は多いはずです。
この記事では、見直しの全体像と、契約書・発注書で違反しやすい5つの箇所、自分で進める5つのステップを順に整理します。そのうえで、行政書士に頼む場合に任せられる範囲と費用の目安もお伝えします。読み終えるころには、「ここまでは自分で、ここからは頼む」の線が引けるはずです。
なお、自社がそもそもフリーランス法の対象になるのかがまだはっきりしない方は、先にフリーランス法の適用対象とは?うちは当てはまる?7つの義務をわかりやすく解説で確認してから読み進めてください。
フリーランス法違反の勧告は「取引条件の明示」と「支払期日」に集中している
公正取引委員会は、フリーランス法に違反した発注事業者への勧告を続けています。2025年には島村楽器・小学館・光文社が、2026年に入ってからもKADOKAWAや日本郵便が勧告を受けました。
日本郵便の勧告(2026年9月2日)では、2024年11月から2025年6月までの間に、167人のフリーランスへ取引条件の全部または一部を明示していなかったこと、140人について支払期日を定めず、期日までに報酬を払っていなかったことが指摘されています。
こうした勧告の中身を並べてみると、目立つのは買いたたきのような派手な違反ではありません。取引条件をきちんと示していない、支払期日を決めていない、という書類まわりの違反です。
うっかりなのか意図的なのかはわかりませんが、大手の会社でも、こうした違反は起きてしまいます。法律を注意深く読み解いて契約書に反映させる作業は、それだけ抜けが出やすいということでしょう。一般の方がひとりで進めるには、難しいところがあるはずです。
裏を返せば、契約書と発注書を整えておけば、勧告の大半は避けられるということです。見直しの手間をかける価値は、十分にあります。
取引条件の明示(3条通知)は契約書でなくてもよい|見直す書類は4つ
フリーランス法の取引条件の明示義務(3条。「3条通知」とも呼ばれます)は、「契約書を交わしなさい」という義務ではありません。業務を委託したら直ちに、決められた事項を書面か電磁的方法で示しなさい、という義務です。
パンフレットにも、書面は契約書でなくてもよく、発注書でも、メールやチャットのメッセージでもかまわないと書かれています(公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法パンフレット」令和8年4月改訂版、6〜8ページ)。電話など口頭で伝えるだけでは認められません。
つまり見直しの対象は、次のように広がります。
| 書類・やり取り | 見直す理由 |
|---|---|
| 業務委託の基本契約書 | 共通事項(支払方法・検査期間など)を決めている場合、有効期間の明示が要る |
| 個別の発注書・注文書 | 発注のたびに明示すべき事項が欠けていないか |
| 発注メール・チャットの文面 | 実際にはここで発注が完結していることが多い |
| 解除・更新の条項 | 6か月以上の取引では30日前の予告が要る |
契約書は立派でも、日々の発注はチャットで「これお願いします」と送っているだけ、という会社は珍しくありません。その場合、明示漏れが起きているのはチャットのほうです。
形に残るものなら何でもよいと聞くと、「メールやチャットが残っているから、これでいいか」と考えたくなります。ただ、発注書やメール、チャットは、ほかのやり取りに紛れて見つからなくなることがあります。決まった条件は、契約書としてきちんと残しておくべきだと私は考えています。
契約書・発注書で違反しやすい5つの箇所
1. 明示すべき8項目(記載事項)が欠けている
パンフレットが挙げる明示事項は、次の8つです(⑥と⑧は該当する取引だけ)。
- 発注事業者とフリーランスの名称
- 業務委託をした日
- 給付の内容(品目・数量・仕様など)
- 給付を受け取る期日(納期)
- 給付を受け取る場所(納品先)
- 検査をする場合は、検査を完了する期日
- 報酬の額と支払期日
- 金銭以外で報酬を払う場合は、その支払方法
抜けやすいのは、②の「業務委託をした日」と⑥の「検査完了期日」です。既存の契約書のひな形には、もともとこの欄がないことが多いからです。
チェックの作業そのものは、手元の書類と8項目を突き合わせるだけです。ただ、基本契約・発注書・チャットのどこに何が書いてあるかを取引ごとに追うのは、思った以上に骨が折れます。項目の突き合わせから修正案づくりまでを、フリーランス法対応のチェックとしてお引き受けしています。
2. 支払期日が「〜まで」「〜以内」になっている(60日ルール)
従業員を使っている発注事業者は、成果物を受け取った日から60日以内のできるだけ短い期間で、支払期日を決めなければなりません(4条)。
ここで見落とされやすいのが書き方です。パンフレットは、「●月●日まで」「●●日以内」という書き方は、支払期日を定めたとは認められないとしています(10ページ)。「毎月末日締切、翌月末日支払」のように、日が特定できる書き方に直します。
また、慣習で続けている「月末締め・翌々月末払い」は、月初に受け取った分が60日を超えてしまいます。社内の経理の締めと合わせて見直す必要があり、契約書の文言だけでは片づきません。
なお、「60日」は運用上、「2か月」として数えます。31日まである月も30日までの月も、同じ1か月と考えるためです(11ページ)。取適法の講習会でも、担当の方から、1月31日に受け取った分なら3月31日までの支払いになる、という説明がありました。
3. 著作権を譲り受けるのに、範囲と対価が書かれていない
デザインや文章、プログラムなど、成果物に著作権が生じる取引では注意が要ります。業務の目的を超えて著作権を譲渡・許諾させる場合は、その範囲を明示し、対価を報酬に含める必要があります(パンフレット6ページ)。
「著作権は発注者に帰属する」と一行だけ書いてある契約書は、ここで引っかかります。何をどこまで譲り受けるのかを、取引の実態に合わせて書き分けることになります。
作り手の側から見ると、著作権はそう簡単に手放したいものではありません。「発注者に帰属する」と書きたいのであれば、契約書を差し出す前に、まずひとこと相談してほしいところです。その相談があるだけで、受け取る側の安心はずいぶん違います。
4. 中途解除・不更新の30日前予告が抜けている
6か月以上続く業務委託を、発注者側から解除したり更新しなかったりするときは、原則として30日前までに予告が要ります(16条)。基本契約を結んでいる場合は、個別の発注ではなく基本契約の期間で判断します。
契約書に「次の事由があれば催告なく直ちに解除できる」と書いてあれば、その場合は予告がいらない、と読みたくなるところです。ところがパンフレットは、そう定めていても、法律の例外事由に当たらない限り予告は不要にならない、と明記しています(24ページ)。
解除条項は、法律の例外事由(災害など、30日以下の短期の取引、フリーランス側に重大な落ち度がある場合など)と照らし合わせて書き直す必要があります。著作権の条項もそうですが、このあたりは一行を直すと別の条項とのつじつまが崩れやすく、条項どうしの整合まで含めた契約書の見直しが必要になる部分です。
5. SNS・チャットで発注した記録が残っていない
SNSやチャットツールでの明示も認められていますが、送信者が相手を特定して送るメッセージに限られます。ブログやウェブページへの書き込みは、明示になりません(7ページ)。
さらに、サービスの終了やメッセージの削除で中身が確認できなくなれば、フリーランスから求められたときに書面で出し直す必要があります。発注の定型文を決めて、スクリーンショットやPDFで保存する運用までを、見直しに含めておきます。
自分で契約書・発注書を見直す5ステップ
ここまでの内容を、自社で進める手順に並べ直すと、次のとおりです。
- 取引を洗い出す:外注先が従業員を使っていない個人・一人社長かを確認し、取引ごとの期間(1か月以上・6か月以上か)を書き出す
- 書式を全部集める:基本契約書、発注書のひな形、発注メールやチャットの定型文まで手元にそろえる
- 8項目と突き合わせる:取引ごとに、どの書類で何が明示されているかを表にする。空欄が出たところが直す箇所
- 条項を直す:支払期日の書き方、著作権の範囲と対価、解除・更新の予告を、法律の基準に合わせる
- 運用を決める:発注したら直ちに出す、記録を保存する、担当者に周知する。共通事項を使うなら有効期間も決める
外注先が数人で、発注の形も決まっている会社なら、パンフレットを横に置いて自社で進めることは十分にできます。パンフレットには発注書とメール発注の記載例も載っているので(8ページ)、まずはそれを自社の書式と見比べるところから始めてください。
専門家に頼むつもりの方も、1と2の取引の洗い出しと書式集めは、できれば自社で進めておいてください。そのうえで、途中で混乱してしまったときは、そこからでもできる限りお手伝いします。
なお、資本金や従業員数によっては、フリーランス法と同じ取引に取適法(旧下請法)もかかります。その場合の書面の考え方は、取適法 3条書面から4条書面へ|記載事項12項目・電子交付・罰則をわかりやすく解説にまとめています。
行政書士に頼む場合|任せられる範囲・費用・依頼の流れ
一方で、次のような場合は、専門家に任せたほうが早く、確実です。
- 外注先が多く、取引ごとに期間や発注の形がばらばら
- 著作権の譲渡が絡む制作物の取引が中心
- 基本契約と個別発注の関係が整理されていない
- 取適法もかかるかどうか判断がつかない
任せられること
行政書士は、契約書などの権利義務に関する書類の作成を業務としています。フリーランス法への対応でいえば、今の契約書・発注書のチェック、修正案の作成、新しい基本契約書や発注書のひな形づくり、発注メールの定型文の整備までをお引き受けできます。
当事務所の契約書業務のページに掲載している料金は、次のとおりです(2026年10月時点)。
| 内容 | 料金の目安 |
|---|---|
| 契約書の確認・修正 | 10,000円〜30,000円程度 |
| 業務委託契約書の作成 | 33,000円〜 |
| チャット相談プラン | 7日間 8,800円/30日間 16,500円 |
フリーランス法対応のチェックは、書類の数や取引の形によって変わるため、ヒアリングのあとにお見積りをお出ししています。
任せられないこと
すでにフリーランスとの間で報酬や解除をめぐって争いになっている場合、相手方との交渉や代理は弁護士の業務です。行政書士はお引き受けできません。
また、公正取引委員会などから調査や指導を受けている場合の対応も、弁護士へのご相談をおすすめします。行政書士が力になれるのは、トラブルになる前に書類を整えておく段階です。
依頼の流れ
- お問い合わせ
- ヒアリング(今の書類と取引の形をうかがいます。オンラインまたは対面)
- お見積り・ご契約
- チェックと修正案の作成
- 納品(修正後の書式と、運用の注意点をお渡しします)
まとめ
- フリーランス法の勧告は、取引条件の明示と支払期日の違反に集中している
- 見直す対象は契約書だけでなく、発注書、発注メールやチャットの文面まで含まれる
- 違反しやすいのは、明示8項目の欠け、「〜まで」の支払期日、著作権の対価、解除の予告、チャットの記録
- 取引が少なく形も決まっていれば、パンフレットを使って自分で見直せる
- 取引の数が多い、著作権が絡む、取適法もかかりそう、という場合は専門家に任せるのが早い
契約書・発注書の見直しをご検討の方へ
外注先に仕事を頼むたびに条件をきちんと示すことは、法律の義務である前に、相手を一人のプロとして迎えるための作法でもあります。
私も以前、在宅の仕事を請け負っていたころ、契約条件がどこにあるのか分からず不安になったことがあります。プラットフォームの側に契約書は用意されていたようなのですが、簡単には見つけられませんでした。
別の在宅の仕事では、最初に契約書を示してもらえたので、きちんと読んでから安心して始めることができました。受け取る側にとって、契約書はお守りのようなものです。
尼崎で行政書士事務所を開いており、全国からオンラインでご相談をお受けしています。阪神間・大阪府・京都市内であれば対面でのご相談も可能です。
「今の書式のどこが足りないのか、まず知りたい」という段階からでもかまいません。フリーランス法に対応した契約書・発注書の見直しについて、お気軽にお問い合わせください。
フリーランス法で悩んだら、まずは無料相談から