イラストの著作権譲渡はどうなる?イラストレーターが嫌がる理由と、断られない頼み方5つ【発注者向け】

イラストを依頼して、ラフも順調に上がってきた。そこで「著作権も譲っていただけますか」と一言添えたところ、それまで早かった返信が、ぱたりと止まってしまった。

発注する側からすると、首をかしげたくなる反応です。きちんとお金を払うつもりでいるし、無理な使い方をするつもりもない。それなのに、なぜ相手は身構えるのでしょうか。

インターネットで受注する側の書き込みを読んでいると、この「身構え」の理由がよく見えてきます。そこにあるのは、わがままではなく、たいていはよくわからないものへの不安です。

この記事では、著作権を譲渡するとイラストがどうなるのかを確かめたうえで、イラストレーターが譲渡を嫌がる理由を整理します。後半では、断られずに合意へたどりつくための頼み方を5つお伝えします。

この記事を書いている事務所

行政書士松井純子行政書士事務所

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目次

イラストの著作権を譲渡すると、どうなる?

描いた本人も、その絵を自由に使えなくなります

著作権を譲渡するというのは、イラストの「使い方を決める権利」を、まるごと発注者に移すことです。譲渡したあとは、発注者が権利者になります。

ここで見落とされやすいのが、描いた本人であっても、その絵を勝手には使えなくなるという点です。自分のサイトに載せる、画集にまとめる、グッズにして頒布する。どれも、権利者になった発注者の許しが要るようになります。

趣味でイラストを描く私が想像してみると、これはかなり重いことです。自分の手で描いた絵なのに、手元に置いて眺める以外のことができなくなる。そう考えると、即答できないのも無理はないと感じます。

譲渡しても、移らないものがあります

もっとも、譲渡の契約を結んでも、すべてが発注者に移るわけではありません。

ひとつは著作者人格権です。名前を出すかどうか、意に反する改変をされないか、といった作者の気持ちを守る権利で、著作権法59条により譲渡できないとされています。

もうひとつが、著作権法27条・28条の権利です。色を変える、別のポーズを描き起こすといった手を加えて使う権利は、契約書で名指しして書いておかないと、イラストレーターのもとに残ると推定されます(61条2項)。

このあたりの条文の書き方は、著作権譲渡契約書の雛形をイラストに使う前に|危ない5つの条項と直し方でくわしく取り上げています。この記事では、条文よりも「相手がどう受け取るか」のほうに目を向けていきます。

イラストレーターが著作権譲渡を嫌がる4つの理由

受注する側の声を見ていくと、譲渡を嫌がる理由は、おおむね次の4つに分けられます。

理由1:作品は、次の仕事を取るための財産だから

イラストレーターにとって、描いた絵は一度きりの納品物ではありません。実績として見せることで次の依頼につながり、ときには画集やグッズとして、あとから収入を生むこともあります。

「商品化されても、権利は全部自分のものにしておきたい。自分が許さない限り使えないようにしたい」。そう願う書き込みも目にします。描く側にとって著作権は、生活の基盤そのものなのです。

発注者が「この1枚を自由に使いたい」と考えるのと同じ強さで、イラストレーターは「この1枚を手放したくない」と考えている。まずは、そこから出発するのが早道です。

理由2:著作者人格権の不行使が「何をされても黙っていろ」と読めるから

譲渡契約書には、たいてい「著作者人格権を行使しない」という一文が入ります。発注者の側からすれば、あとで改変や名前の扱いで揉めないための、ごく普通の条項です。

ところが受け取る側からは、これが「どんなに作品を変えられても、名前を消されても、一切口を出せない」という約束に見えます。譲渡そのものより、この一文のほうを強く嫌う人も少なくありません。

イラストレーターのあいだでは、「著作権譲渡の契約書を出してくる会社は要注意だ」と受け止められることすらあります。発注者にそのつもりがなくても、書面の文言だけを見て、そう判断されてしまうのです。

理由3:契約書の意味がわからないから、怖い

「取引先から、秘密保持契約書と制作の基本契約書を承諾してほしいと言われた。読んでも意味がわからず不安だ」。こうした声も、決して珍しくありません。

個人で活動しているイラストレーターの多くは、契約書を読み慣れていません。わからない書類にサインするのは、誰にとっても怖いことです。意味がわからないから断る、というのは、自分の身を守るための当然の反応です。

つまり、相手が身構えているのは、条件の中身が悪いからとは限りません。中身が伝わっていないだけ、ということがよくあります。

理由4:最初の話と、使い道が変わっていくから

「最初はブログのキャラクターとして使うだけの約束だった。それが会社のホームページにも出るようになり、今になって自由に使いたいから著作権を譲ってほしいと言われた」。

これは、受注者側の困りごととして、とてもよく見かける形です。発注者に悪気はありません。キャラクターが社内で好評だったから、使い道が広がっていった。ただ、描いた側から見ると、約束していない使い方が先に始まっている状態です。

そこへ「契約書はこちらで作ります」と言われたきり、書面が届かない。不信感が積み重なるのは、こういうときです。

よくある誤解:制作費を払っても、著作権は買い取れていない

発注者の側でいちばん多い思い込みが、これです。制作費を払ったのだから、絵は自分のもの。だから著作権も、当然こちらにあるはずだ、と。

実際には、制作費を払っても、著作権は移りません。 契約で譲渡を取り決めない限り、著作権は描いた人のもとに残ります。手元に届いた画像データは、あくまで「使ってよいと言われた範囲で使える絵」です。

さらに、令和6年11月から施行されているフリーランス法のもとでは、知的財産権を、業務委託の目的である使用の範囲を超えて譲渡・許諾させるなら、その範囲を明示し、対価を報酬に加える必要があるとされています。「制作費に権利も込み」という進め方は、法律の面でも通りにくくなっています。

金額の決め方については、イラストの著作権譲渡、金額の相場はいくら?で整理しています。

イラストレーターに著作権譲渡を断られない頼み方5つ

ここからは、譲渡を受けたい発注者が、相手の不安を一つずつほどいていくための頼み方です。

1. 契約書は、発注者から、入金の前に出す

「入金した人から順に契約書を送る」と言われてお金を支払ったのに、何か月たっても契約書が届かない。依頼した側のそんな声もあります。契約書を相手任せにすると、こういうことが起こります。

発注者が事業者であれば、フリーランス法により、発注の時点で取引条件を明示する義務は発注者の側にあります。待つのではなく、こちらから用意して、お金が動く前に示す。それだけで、相手の安心感はずいぶん変わります。

自分で一から書くのが難しければ、著作権の譲渡を含む契約書の作成を専門家に頼む方法もあります。

2. 使い道を先に言葉にする。譲渡と利用許諾の違いを知っておく

「何に使うかはまだ決まっていないけれど、念のため全部ほしい」。これがいちばん相手を警戒させる頼み方です。

ポスターに使うのか、ホームページか、グッズか、将来はキャラクターとして育てたいのか。使い道を具体的に挙げてみると、実は独占的な利用許諾で足りるということがよくあります。「うちだけが、決めた範囲で使える」という約束です。

利用許諾であれば、イラストレーターは権利を手放さずに済みます。しかも、許諾を受けた利用権は、そのあとに著作権を譲り受けた人などにも主張できます(著作権法63条の2)。発注者にとっても、それほど心細い形ではありません。

ただし、対抗できるのは「使ってよい」という利用権そのものです。「うちだけが使える」という独占の約束までは第三者に主張できず、無断で使っている人を自分で止めることも、原則としてできません。そこまで必要なら、譲渡を考える場面です。

3. 譲渡の対価(買い取りの料金)を、制作費と分けて示す

譲渡がどうしても必要なら、「制作費」と「著作権の譲渡の対価」を、見積もりや契約書のうえで分けて書きます。

分けて示すことには、二つの意味があります。ひとつは、先ほどのフリーランス法に沿うこと。もうひとつは、権利を手放すことに、きちんと値段をつけているとイラストレーターに伝わることです。

「全部込みで◯万円」と言われるのと、「制作費◯万円、譲渡の対価◯万円」と言われるのとでは、同じ総額でも受け取られ方がまるで違います。

4. 人格権と実績掲載は、相手の譲れない線を聞いてから決める

著作者人格権の不行使は、発注者にとって必要な条項です。ただ、「一切行使しない」と広く書くほど、相手は手を止めます。

先に聞いてみてください。名前は出してほしいか。どこまでの改変なら許せるか。実績としてサイトやSNSに載せたいか。そのうえで、クレジットは表記する、作品の評価を大きく損なう改変はしない、公表後は実績として載せてよいと書き込めば、不行使の条項はずっと通りやすくなります。

相手の希望を聞きながら条文に落とし込むのは、思いのほか手間のかかる作業です。双方の言い分を一つの文面にまとめる契約書チェックも承っています。

5. 修正の回数と範囲を決めておく

ラフ、線画、着色と、段階ごとにOKを出してもらったのに、最後になって「初めから描き直してほしい」と言われた。受注者の側からは、こうした声も聞こえてきます。

修正の回数、どの段階までなら大きな変更ができるのか、それを超えたら追加料金がかかるのか。これを決めておくことは、イラストレーターを縛るためではなく、発注者が安心して修正を頼めるようにするための取り決めです。

なお、従業員を雇っている発注者が1か月以上続く業務委託をしている場合は、フリーランス法により、イラストレーターに落ち度がないのにやり直しをさせて、その利益を不当に害することが禁止されています。

補足:他人のキャラクターを描いてもらうときは

すでにあるキャラクター、たとえば自社や知人が考えたオリジナルキャラクターを、別のイラストレーターに描いてもらう場合があります。LINEスタンプにする、新しい衣装を描き起こしてもらう、といった依頼です。

このとき、もとのキャラクターの権利をどう扱うかは、描く側では決められません。もとの作者から許しを得ておくのは、発注者の仕事です。 描く側が契約書にどう書けばいいのか迷ってしまうのは、たいていここが整理されていないときです。

著作権譲渡を受けたら、移転登録も考えておく

無事に合意できて、著作権の譲渡を受けた。ここで終わりにしてしまう方がほとんどですが、もう一つ考えておきたいことがあります。

著作権法77条により、著作権の移転は、文化庁に登録しなければ第三者に対抗できないとされています。たとえば、イラストレーターが同じ著作権を別の人にも二重に譲ってしまった場合、先に登録を済ませたほうが権利を主張できます。

もちろん、そんな事態はめったに起きません。それでも、キャラクターを自社の看板として長く育てていく、商品化して第三者にライセンスする、といった場合には、登録しておく意味が大きくなります。

登録は、原則として、譲渡したイラストレーターと譲り受けた発注者が一緒に申請します。発注者が一人で申請する場合も、イラストレーターの承諾書が要ります。ここでも、相手の協力が欠かせません。

申請書と譲渡を証明する書類をそろえ、登録免許税(著作物1つにつき18,000円)を納めます。何点ものイラストを譲り受けたなら、その数だけかかります。書類の作り方に迷う場合は、著作権の移転登録の申請サポートもご利用いただけます。

著作権譲渡契約書は自分で作るか、行政書士に頼むか

ここまでの5つの頼み方は、どれも発注者が自分で実践できるものです。相手の希望を聞き、使い道を言葉にし、金額を分けて示す。それだけで、話がまとまることも多いはずです。

一方で、次のような場面では、専門家の手を借りたほうが早く進みます。

  • 相手の希望を聞いたものの、それを契約書の条文にどう落とし込めばいいかわからない
  • キャラクターを長く使う予定で、27条・28条や人格権の扱いを取りこぼしなく決めておきたい
  • 譲渡を受けたあと、移転の登録まで済ませておきたい

当事務所でお引き受けできるのは、譲渡契約書・利用許諾契約書の作成と見直し、文化庁への移転登録の申請サポートです。

ただし、すでに相手と揉めてしまっていて、代理人として相手と交渉してほしいというご依頼は、弁護士の業務になるためお受けできません。その場合は、弁護士へのご相談をおすすめします。

まとめ:イラストの著作権譲渡で発注者が押さえること

  • 著作権を譲渡すると、描いた本人もその絵を自由に使えなくなる。イラストレーターが身構えるのは当然のこと
  • 譲渡しても、著作者人格権と、名指ししていない27条・28条の権利は移らない
  • イラストレーターが嫌がる理由は、「作品は財産」「人格権の不行使が怖い」「契約書がわからない」「使い道が後から広がる」の4つ
  • 制作費を払っても、著作権は移らない。 フリーランス法では、譲渡の範囲の明示と対価の上乗せが必要
  • 断られない頼み方は次の5つ
    1. 契約書は発注者から、入金の前に出す
    2. 使い道を言葉にして、利用許諾で足りないか考える
    3. 譲渡の対価を、制作費と分けて示す
    4. 人格権と実績掲載は、相手の希望を聞いてから決める
    5. 修正の回数と範囲を決めておく
  • 譲渡を受けたら、移転の登録(77条)も検討する

譲渡の交渉がうまくいかないとき、原因の多くは条件の厳しさではなく、伝え方のほうにあります。相手が何を怖がっているのかを知っておくだけで、同じ条件でも、驚くほど話が通りやすくなります。

著作権の譲渡を、相手と気持ちよく進めたい方へ

「このイラストレーターさんとは、これからも一緒に仕事がしたい。だからこそ、権利のことできちんとしておきたい」。そうお考えの発注者の方からのご相談を、お待ちしています。

使い道を伺いながら、譲渡にするか利用許諾にするかの整理から始めて、相手に示す契約書の作成、譲渡後の移転登録までご一緒できます。兵庫県尼崎の事務所ですが、オンラインで全国からのご相談に対応しています。

まずは著作権業務のご案内をご覧ください。契約書をまだ相手に送っていない段階が、いちばん動きやすいタイミングです。

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参考にした主な情報源

  • 著作権法(第27条、第28条、第59条、第61条、第63条の2、第77条)
  • 文化庁「著作権登録制度」
  • 登録免許税法 別表第一(著作権の移転の登録)
  • 公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」

※法令および制度の内容は変更されることがあります。実際のお手続きの前に、最新の情報をご確認ください。

松井純子

行政書士|西宮・尼崎の地域密着業務/全国オンライン対応

松井 純子

松井純子行政書士事務所(尼崎市)

西宮・尼崎エリアでは許認可・遺言相続などの地域密着業務に対応。著作権・契約書のご相談は全国オンラインで承っており、阪神間・大阪府・京都市であれば対面でのご相談も可能です。

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