「うちが発注しているのはデザインやシステム開発だから、工場でモノを作る『製造委託』みたいな話とは関係ないはず」。そう考えている発注担当の方は、案外多いのではないでしょうか。
ですが取適法(中小受託取引適正化法)が対象にする取引は、製造委託だけではありません。デザイン制作やシステム開発の外注も「情報成果物作成委託」に当たり、発注書面の交付や支払期日のルールへの対応が必要になることがあります。
この記事では、「情報成果物作成委託」の定義と、判断に迷いやすい具体例を整理します。読み終えるころには、自社の取引が対象になるかどうか、判断できるようになると思います。
取適法を学ぶ中で理解した内容を、ここにまとめておきます。
取適法とは?情報成果物作成委託を含む5つの対象取引
取適法が対象にする取引は、製造委託だけではありません。修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、そして特定運送委託を合わせた、全部で5つの類型があります。
このうち「情報成果物作成委託」は、モノではなく「形のない成果物」を外注する取引を指します。ソフトウェアの開発、ウェブサイトやデザインの制作、動画・音声コンテンツの制作依頼などが、この類型に当たります。
取適法の条文を読んでいると、「情報成果物作成委託」は製造委託以上に見落としやすい類型だと感じます。工場を持たない企業であっても、外部にデザインやシステムを発注していれば、それだけで対象になりうるからです。
「うちはメーカーじゃないから下請け的な話は関係ない」。そう思っている企業ほど、実は情報成果物作成委託に該当する取引をしていることがあります。まずはこの類型の中身を、順番に見ていきます。
「情報成果物作成委託」とは?取適法第2条の定義をわかりやすく解説
取適法第2条第3項では、情報成果物作成委託について次のように定義されています。
この法律で「情報成果物作成委託」とは、事業者が業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいう。
これも一度読んだだけでは頭に入りにくい文章です。難しいことを難しいまま覚えようとすると、結局身につきません。「情報成果物とは何か」と「委託とはどういう状態か」の2つに分けて、噛み砕いて理解していきます。
実際に読むときは、「情報成果物」や「提供」といった言葉の意味を先に確認してから、文の切れ目に印をつけて読み進めています。長い一文も、意味のかたまりごとに区切れば、思ったより難しくありません。
「情報成果物」に当たる3つの種類
取適法でいう情報成果物には、次の3つの種類があります。
| 種類 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| プログラム | 電子計算機に対する指令の組み合わせ | 業務システム、会計ソフト、家電の制御プログラム |
| 映像・音響 | 影像又は音声その他の音響で構成されるもの | テレビ番組、CM、動画コンテンツ |
| デザイン等 | 文字・図形・記号やこれらと色彩の結合で構成されるもの | 設計図、パッケージデザイン、ポスター、レポート |
「うちが発注しているのはこの3つのどれかに当たるだろうか」。まず自社の外注業務を思い浮かべてみてください。システム開発だけでなく、パンフレットのデザインやウェブサイト制作も対象に含まれます。
該当する3つの類型と具体例
情報成果物作成委託には、さらに3つの類型があります。誰が最終的にその情報成果物を使うのか、という視点で整理すると分かりやすくなります。
- 類型1(提供目的):自社が販売・提供している情報成果物の作成を委託する場合
例:ソフト会社が、販売するゲームソフトの開発を他社に委託する

- 類型2(請負目的):発注元から請け負った作成業務を、さらに他社へ再委託する場合
例:広告会社が請け負ったCM制作を、制作会社に委託する

- 類型3(自家使用目的):自社で使う情報成果物の作成を委託する場合
例:自社のホームページや社内用の会計ソフトの作成を委託する

「たしかに、うちも情報成果物作成委託をしていたかもしれない」。ここまで読んで、そう感じた方もいるのではないでしょうか。自社サイトの制作や社内システムの開発を外注しているだけでも、類型3に該当する可能性があります。
情報成果物作成委託の該当性が判断しにくい7つのケース
自社の取引が3つの類型のどれかに当てはまりそうだとわかっても、実務ではもう少し細かい判断が必要になる場面があります。ここでは、判断に迷いやすい具体例をいくつか紹介します。
条文やテキストを読んでいると、情報成果物作成委託は役務提供委託と混同されやすい類型だと感じます。発注担当者がいちばんつまずきやすいのも、この2つの見分け方ではないでしょうか。
ここでは、コンテンツ制作とソフトウェア開発、2つの業界の具体例を取り上げます。想定する相談者にはコンテンツ制作に近い方が多いと感じていますが、ソフトウェア開発も隣接する領域なので、あわせて押さえておきたいところです。
製作委員会方式の場合、誰が「委託事業者」になるのか
コンテンツ制作の現場では、「製作委員会方式」がよく採られます。製作委員会名でプロダクションに映画制作を委託した場合、委託事業者になるのは誰なのか、迷うところです。
製作委員会が法人格を持っている場合は、出資額や参加事業者の従業員数が基準を満たせば、製作委員会そのものが委託事業者になります。一方、法人格を持たない製作委員会であれば、委託事業者になるのは製作委員会ではなく、参加している事業者それぞれです。
法人格を持たない製作委員会は、参加事業者それぞれが委託事業者になると言われても、結局どう対応すればいいのか、と戸惑う方は多いのではないかと思います。
この場合でも、参加事業者が共同で製作委員会名で4条書面を明示することは差し支えないとされています。名義だけを見て判断せず、実質的に誰が発注しているのかを確認する必要があると感じます。
コンテンツ制作でよくある疑問
翻訳の外注は対象になるか
海外向けに販売しているゲームソフトを日本語版にするため、翻訳を外注するケースを考えてみます。翻訳された文書も情報成果物にあたり、最終的な情報成果物であるゲームソフトを構成する一部でもあるため、翻訳の外注も情報成果物作成委託(類型1)に該当します。
脚本・楽譜の著作権は関係あるか
放送番組で使う脚本やオリジナルテーマ曲の作成も、同じように考えます。脚本家や作曲家に著作権が発生するのだから対象外だろう、と思ってしまいそうですが、それは誤解です。
脚本やテーマ曲は、最終的な情報成果物である番組を構成する情報成果物なので、著作権の帰属先がどこであっても、作成を委託する行為そのものが情報成果物作成委託にあたります。
著作権と取適法は、それぞれ別の目的で権利を守る制度です。著作権が誰にあるかということと、取適法上の委託事業者が誰かということは、切り離して考えたほうが実務では混乱しにくいはずです。
常駐スタッフへの作業依頼は情報成果物作成委託の対象になるか
反対に、対象にならないケースもあります。番組のタイトルCGやBGMの作成でも、外注先の担当者が放送局に出向いて、ディレクターの指示どおりに作業をするという形であれば、情報成果物の作成を任せているのではなく、役務の提供を受けていることになります。
この場合は情報成果物作成委託ではなく、役務の取引として扱われます。誰が実質的に作成の判断をしているか、という視点で見分けるとわかりやすいと思います。
ソフトウェア開発でよくある疑問
自社にない技術部分を外注する場合
社内のシステム開発部門でソフトウェアを作っている会社が、専門知識が必要な一部分だけを外部のシステム開発会社に外注するケースもよくあります。
自社に作成する能力がない部分を外注する場合は、その部分について自社で「業として作成している」とは認められないため、情報成果物作成委託にはあたりません。逆に、普段から自社で作っている部分を外注する場合は、情報成果物作成委託(類型3)に該当します。
この整理は、発注者側からすると少しほっとする話でもあると思います。自社にない技術まで何でも規制の対象にしてしまうと、外注そのものが窮屈になってしまいます。
同じ「外注」でも、その部分をふだん自社で作れるかどうかで結論が変わってくるというのは、意外と見落としやすいポイントだと思います。
常駐エンジニアへのコーディング委託
販売目的のソフトウェアを開発する際、コーディング作業などを行う技術者に、社内に常駐してもらう形で恒常的な業務委任契約を結ぶケースもあります。
役務の提供を受けているだけだから対象外ではないか、と考えたくなりますが、コーディング作業はソフトウェアの作成行為そのものなので、情報成果物作成委託(類型1)にあたります。
4条書面に記載する「給付の内容」を個別のプログラムごとに書けない場合は、「システム(ソフトウェア)開発支援業務」のような書き方でも構いません。
ただしこの場合、作業と同時にコンピュータへ記録される瞬間に受領があったとみなされるため、1か月締切制度を使うのであれば、締切後30日以内に支払期日を定める必要があります。
別会社(中抜き事業者)を挟んだ取引は情報成果物作成委託になるか
外注取引先との間に、付き合いのある別会社を介在させて取引をする場合もあります。その別会社が製品仕様の決定や中小受託事業者の選定、代金額の決定などに実質的に関与せず、注文書の取次ぎや代金の請求といった事務手続の代行をしているだけなら、発注者自身が委託事業者になります。
名目上は別会社を挟んでいても、実態としての発注者が誰かで判断されるということです。
特に、商流上は関与しているように見えても実際には業務をほとんど行わず利益だけを得ている、いわゆる「中抜き事業者」が介在すると、中小受託事業者が受け取る代金が下がったり、情報の伝達が混乱したりしやすくなります。
支払遅延の禁止や代金の減額の禁止、買いたたきの禁止といった取適法違反を誘発しやすい状況でもあるため、特に注意が必要だと感じます。
まとめ
情報成果物作成委託は、製造委託とちがって「モノが手元に残らない」取引です。契約の名目や著作権の帰属先だけを見ても判断できないことが多く、実態に照らしてひとつずつ確認する姿勢が欠かせません。
ここまでの内容を、あらためて整理します。
- 取適法は製造委託だけでなく、情報成果物作成委託も対象にしている
- 情報成果物とは「プログラム」「映像・音響」「デザイン等」の3種類を指す
- 自社が販売・請負・自家使用のいずれの目的で外注しているかで、該当する類型が変わる
- 製作委員会方式や常駐スタッフへの委託、著作権の帰属先などは、名目だけでは判断できない
- 別会社を介在させていても、実質的な発注者が委託事業者になる
モノが残らない取引だからこそ、発注担当者自身も、自分たちの外注が対象になっているという自覚を持ちにくいのだと思います。ひとつでも当てはまりそうな取引があれば、一度立ち止まって確認してみてください。
ご相談について
「情報成果物作成委託」と聞いて、自分のことだとすぐにわかる方もいれば、自信が持てない方もいると思います。どちらであっても、まずは自社の取引を一度棚卸ししてみることをおすすめします。
尼崎で行政書士事務所を運営しており、契約書の見直しや取適法対応について、ご相談を承っております。学んできたことを実務に生かしながら、一緒に考えていきたいと思います。
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