描いたイラストを、企業が使いたいと言ってくれた。うれしい話ですが、少し引っかかることもあります。著作権まで渡すつもりはない。けれど、相手がどこまで使うつもりなのかも、まだはっきりしない。
「自分の許可がない限り使えないようにしておきたい」「最初はブログ用だったのに、いつのまにかホームページにも載っていた」。イラストを描く人のこうした声は、ネットの相談サイトにいくつも残っています。
読んでいると、描く人がどれほど自分の作品を大切に思っているかが伝わってきます。作品は、自分の力の結晶です。それを発注者の都合のいいように扱われるのは、つらいことなのだろうと感じます。
作品を手放さずに、決めた範囲でだけ使ってもらう。そのための書面が、著作権利用許諾契約書(ちょさくけんりようきょだくけいやくしょ)です。この記事では、イラストレーターの側から、何を書いておけば作品を守れるのかを8つの項目に分けて整理します。
とくに、これから仕事を広げていく駆け出しのイラストレーターの方に読んでいただきたい内容です。
著作権の利用許諾とは?著作権譲渡との違い
権利は手元に残したまま、使い方だけを許す
著作権を持っている人は、ほかの人に「この範囲でなら使ってよい」と許すことができます(著作権法63条1項)。これが利用許諾で、ライセンスとも呼ばれます。許された側は、その決められた方法と条件の範囲でだけ作品を使えます(同条2項)。
譲渡との違いは、著作権が誰のものになるかです。譲渡すると、権利は発注者に移り、描いた本人でさえ絵を自由には使えなくなります。利用許諾なら、著作権はイラストレーターのもとに残ります。
たとえるなら、車を売るのと、レンタカーとして貸すのとの違いです。売ってしまえば、元の持ち主はもうその車に乗れません。レンタカーなら、車は手元に残したまま、契約した人に、決めた条件のときだけ使わせることができます。
| 著作権の譲渡 | 著作権の利用許諾 | |
|---|---|---|
| 著作権は誰のもの? | 発注者に移る | イラストレーターに残る |
| 発注者ができること | 原則として自由に使える | 契約で決めた範囲でだけ使える |
| 描いた本人の利用 | 発注者の許しが要る | 契約で制限しない限り使える |
| 契約書の芯になるもの | 何を、いくらで譲るか | 何に、どこまで、いつまで使えるか |
許可を受けた相手は、勝手にほかの人へ回せない
利用許諾を受けた人の「使ってよい」という権利(利用権)は、著作権者の承諾がなければ、ほかの人に譲れません(63条3項)。発注者が、知らないうちに別の会社へ使う権利を売ってしまう、ということは起きない仕組みです。
もう一つ、発注者の側にも安心材料があります。令和2年10月からは、利用権を、あとから著作権を譲り受けた人などにも主張できるようになりました(63条の2)。イラストレーターが著作権を誰かに譲っても、すでに許した相手は使い続けられるということです。
この2つの条文を並べてみると、よくできていると感じます。権利者をしっかり守りながら、作品が使われる道も開いておく。どちらか一方に寄らず、バランスが取れています。
譲渡を頼まれて迷っているとき、「利用許諾ではいけませんか」と返せるのは、この仕組みがあるからです。発注者向けには二次利用イラストどこまで使っていいの?でも、許諾と譲渡の違いを説明しています。
著作物利用許諾契約書に書いておきたい8つの項目
ここからは、契約書に書く中身です。どれも「書いていないと、相手に有利に読まれやすい」ところばかりです。
1. 対象となる作品
まず、どの作品の話なのかを特定します。「キャラクターイラスト一式」のような書き方では、あとから描いた別の絵まで含むのかどうかがわかりません。
作品のタイトル、点数、納品したファイル名や納品日など、第三者が見ても一つに決まる書き方にしておきます。キャラクターが複数いるなら、一人ずつ挙げておくと、あとで「この子だけ別の用途に使いたい」という話にも対応しやすくなります。
2. 使ってよい目的と媒体
いちばん大切なのが、ここです。ホームページ、SNS、パンフレット、店頭のポスター、グッズ。使ってよいものを、具体的に挙げます。
「広告宣伝のため」とだけ書くと、ウェブ広告もテレビCMも看板も含まれると読めてしまいます。挙げた媒体以外に使いたくなったら、その都度相談してもらう、と一文添えておけば、使い道が知らないうちに広がっていくのを防げます。
3. 使ってよい期間
いつからいつまで使えるのかを決めます。期間を書かないと、いつまででも使えると主張されかねません。
1年ごとに更新する形にしておけば、使われ方や対価を見直すきっかけにもなります。あわせて、期間が終わったあと、印刷物の在庫やウェブに載せた画像をどう扱うかも書いておくと、終わり方で揉めずに済みます。
4. 使ってよい地域
国内だけか、海外でも使ってよいのかです。ウェブに載せる以上、世界中から見られることは避けられないので、「日本国内向けのウェブサイトでの公開」のように、媒体とあわせて書くのが実際的です。
海外での商品化など、大きな展開の可能性がある案件ほど、ここは分けて考える意味があります。
5. 独占的利用許諾か、非独占的利用許諾か
その相手にだけ使わせる(独占的)のか、ほかの相手にも使わせてよい(非独占的)のかです。
企業のイメージキャラクターなら、独占を求められるのが自然でしょう。ただ、独占にするなら、その分の対価を上乗せしてよい場面です。
そのうえで、独占にしても、描いた本人がポートフォリオや画集に載せることは認める、と書いておきます。ここを書き忘れると、自分の絵なのに実績として見せられない、ということが起こりえます。
実績として見せられなければ、自分の実力を知ってもらう機会がそれだけ減ります。次の仕事につなげるという意味で、ビジネスとしてははっきりマイナスです。
6. 改変と、ほかの人への再許諾
トリミングや色の変更、文字の重ね置き、別のポーズへの描き起こし。発注者がどこまで手を加えてよいかを決めます。「縦横比を変えない範囲の縮小・トリミングは可。それ以外の改変は事前に相談」のように、許す線と相談する線を分けておくと実務で困りません。
8つの項目のうち、趣味でイラストを描く私がいちばん譲れないのは、この改変の項目です。知らないところで手を加えられて使われるのは、絶対に嫌です。そのかわり、一声かけてもらえるなら、トリミングや色の変更はかまいません。
あわせて、グッズの製造会社や広告代理店など、発注者以外の会社に使わせてよいか(再許諾、サブライセンス)も書きます。認めるなら、相手先を事前に知らせてもらう形にしておくと安心です。
7. クレジット表記と、作者としての気持ちを守る取り決め
名前を出してほしいのか、出さなくてよいのか。出すなら、どの名義で、どこに表示するのかを書きます。手を加えるのは相談しだいで許せても、名前を消されることだけは受け入れられない、という人は多いはずです。
利用許諾の契約でも、発注者から「著作者人格権を行使しない」という一文を求められることがあります。作品を公表するかどうか、名前を表示するかどうか、意に反する改変をされないか、といった作者の気持ちを守る権利です。
この一文を強く嫌うイラストレーターは少なくありません。それだけ、創作ということに高い意識を持っているのでしょう。
「一切行使しない」と約束してしまうのではなく、作品の評価を損なう改変はしないといった条件をつけておけます。
8. 対価と支払い方
最後が、使用料です。払い方は大きく分けて2つあります。
- 一括払い:契約時にまとめて受け取る。期間や媒体が決まっている案件向き
- 売上に応じた使用料:グッズの販売数などに応じて受け取る。商品化の案件向き
売上に応じて受け取るなら、販売数を報告してもらう義務と、その時期も書いておきます。報告がなければ、いくら受け取れるはずなのか確かめようがありません。
利用許諾契約書の雛形・テンプレートでつまずきやすい4つのところ
テンプレートの「一切の利用を許諾する」は、譲渡に近い
ネットで手に入る利用許諾契約書の雛形は、使う側の事業者が作ったものが少なくありません。「甲は乙に対し、本著作物の一切の利用を許諾する」のような一文が、さらりと入っていることもあります。
期間も媒体も限らず、独占で、改変も再許諾も自由。これでは著作権が手元に残っていても、実質的には譲渡とあまり変わりません。
雛形を使うときは、上の8項目がそれぞれどう書かれているかを一つずつ確かめてください。条文の読み方は、譲渡の契約書を例にした著作権譲渡契約書の雛形をイラストに使う前に|危ない5つの条項と直し方も参考になります。
相手から届いた契約書が自分に不利になっていないか、判断に迷うときは、利用許諾契約書の確認・見直しを専門家に頼む方法もあります。
すでに使われている分は、さかのぼって契約に入れる
ブログ用に描いたはずの絵が、契約書のないまま、もうホームページにも使われている。こういう場合でも、あきらめる必要はありません。
これから結ぶ契約書に、「○年○月○日からの利用についても、本契約に基づき許諾したものとする」と書き、その期間の対価も含めて取り決めることができます。過去の使い方を、あとから契約の中に取り込む形です。
相手の契約書を待ち続ける必要はありません。こちらから積極的に条件を示すべきですし、そのほうが話は早く進みます。
相手が従業員を雇っている事業者で、1か月以上続く取引なら、フリーランス法も後ろ盾になります。令和8年10月に改められた国の「考え方」で、最初に頼まれていなかった範囲の権利を無償で譲らせたり許諾させたりすることは、禁止されている「不当な経済上の利益の提供要請」に当たると明記されました。
イラストレーターによる二次利用を制限して、その利益を不当に害することも同じ扱いです。よくぞ明記してくれた、というのが読んだときの感想でした。
ブログ用に描いた絵が、対価のないままホームページにも広がっているなら、その分の使用料を取り決めてほしいと伝えるのは、正当な求めです。
過去の分の対価や、いつから許諾したことにするのかの書き方に迷うときは、さかのぼる期間も含めた利用許諾契約書の作成もご相談ください。
発注者が事業者なら、条件を示す義務は発注者にある
令和6年11月から施行されているフリーランス法では、従業員を雇わず個人で仕事を受けるイラストレーターに業務を委託する事業者は、報酬や給付の内容といった取引条件を、書面やメールなどで示さなければなりません。著作権の譲渡や利用許諾を伴うなら、その範囲もはっきりさせることが求められます。
「契約書はあとで」と言われたままなら、条件をメールで送ってもらうよう頼むのは、わがままではありません。
利用許諾契約書に印紙は要る?
「利用許諾契約書 印紙」と検索する方もいるようです。紙の契約書に貼る収入印紙のことです。
印紙が要るか、要るならいくらかは、タイトルではなく契約書に何が書かれているかで決まります。同じ「利用許諾契約書」という名前でも、イラストの制作まで一緒に取り決めているかどうかなどで扱いが変わるため、一概には言えません。
ひとつ覚えておくと便利なのが、電子契約なら印紙は要らないということです。PDFに電子署名をするなど、紙を使わずに交わした契約書には、印紙を貼る必要がありません。当事務所でも、電子契約でのやりとりに対応しています。
利用許諾契約書の作り方|文化庁のシステムを土台にする4ステップ
一から書くのが不安なら、文化庁の「著作権契約書作成支援システム」が使えます。既存のイラストや写真の利用許諾など、場面ごとに質問に答えていくと、契約書のひな形ができあがります。
実際に使ってみると、使い勝手はよいものの、できあがる契約書はかなり簡易的です。そのまま使うのではなく、手を入れる前提で考えてください。
進め方は、次のとおりです。
- 相手が何に、どこで、いつまで使いたいのかを聞き出し、メモにする
- 文化庁のシステムで、利用許諾の契約書のひな形を作る
- 上の8項目に照らして、足りないところを書き足す(とくに、自分の実績掲載と、再許諾の扱い)
- 相手に送り、修正の希望を聞いてから、双方で署名する
趣味でイラストを描く私の感覚でいえば、いちばん手間がかかるのは1の聞き取りです。相手もまだ使い道を決めきれていないことが多く、聞いて初めて「そういえばグッズも考えていた」と出てくることもあります。
著作権利用許諾契約書の作成を、行政書士に頼むなら
自分で作れる方は、ここまでの手順で十分です。そのうえで、次のような場面では、専門家の手を借りたほうが早く進みます。
- 相手の使い道が広く、8項目をどう線引きすればいいか決めきれない
- 相手から届いた契約書が、自分に不利になっていないか確かめたい
当事務所では、利用許諾契約書の作成と、届いた契約書の確認・修正案の作成をお引き受けしています。作品をどう使ってほしいか、どこは譲れないかを伺いながら、イラストレーターの側に立った利用許諾契約書の作成を進めます。
ただし、相手との条件の交渉を代わりに行うことや、すでに揉めてしまっている案件への対応は、弁護士の業務になるためお受けできません。そうした場合は、弁護士へのご相談をおすすめします。
まとめ:著作権利用許諾契約書で、作品を手放さずに使わせる
- 利用許諾なら、著作権はイラストレーターに残り、相手は決めた範囲でだけ使える(63条)
- 許諾を受けた相手は、イラストレーターの承諾なしに、使う権利をほかへ譲れない(63条3項)
- 契約書に書いておきたい8つの項目
- 対象となる作品
- 使ってよい目的と媒体
- 使ってよい期間(終わったあとの扱いも)
- 使ってよい地域
- 独占か非独占か(自分の実績掲載は残す)
- 改変と再許諾
- クレジット表記と、作者としての気持ちを守る取り決め
- 対価と支払い方(売上に応じるなら報告義務も)
- 雛形の「一切の利用を許諾する」は、実質的に譲渡に近い
- すでに使われている分は、さかのぼって契約に入れられる。頼まれていなかった範囲の権利を無償で使わせることは、フリーランス法で禁止されている場合がある
- 印紙が要るかどうかは契約書の中身で決まる。電子契約なら印紙は要らない
利用許諾の契約書は、相手を縛るための書類ではありません。作品を守り、相手との関係も守る、お互いのためのお守りのようなものです。「ここまでは安心して使ってください」と伝える書類でもあります。範囲がはっきりしているほど、発注者も迷わずに作品を使えます。
自分の作品の使われ方を、言葉にしておきたい方へ
「この絵は大切にしたい。でも、気持ちよく使ってもらいたい」。そうお考えのイラストレーターの方からのご相談を、お待ちしています。
作品にこめた思いや譲れない線を伺いながら、相手に示せる利用許諾契約書の形にまとめます。兵庫県尼崎の事務所ですが、オンラインで全国からのご相談に対応しています。
まずは著作権業務のご案内をご覧ください。相手に契約書を送る前、あるいは届いた契約書にサインする前が、いちばん動きやすいタイミングです。
利用許諾で悩んだら、まずは無料相談から
これであんしんチェック!内容を確認しよう!
関連記事
- 著作権譲渡契約書の雛形をイラストに使う前に|危ない5つの条項と直し方
- 二次利用イラストどこまで使っていいの?発注者が知るべき権利と契約の基本
- イラストの著作権譲渡、金額の相場はいくら?クリエイターとの信頼関係を築くコツ
参考にした主な情報源
- 著作権法(第59条、第63条、第63条の2)
- 文化庁「著作権契約書作成支援システム」
- 公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(令和8年10月1日改正)
※法令および制度の内容は変更されることがあります。実際のお手続きの前に、最新の情報をご確認ください。