下請法が取適法(中小受託取引適正化法)に変わってから、10か月ほどがたちました。発注書の「下請事業者」という言葉は書き換えたものの、中身は下請法の時代のひな形のまま、という会社は多いのではないでしょうか。
この記事では、取適法で発注書(注文書)に書くべき事項を、公正取引委員会の書式例に沿って整理します。あわせて、古いひな形で違反になりやすい5つの箇所と、行政書士に頼む場合に任せられる範囲をお伝えします。
自社がそもそも対象になるのかがはっきりしない方は、先に資本金か従業員数か?取適法の対象取引を見極める方法をご覧ください。
取適法(旧下請法)の違反で最も多いのは発注書の不備|令和7年度は44.2%
公正取引委員会が公表した令和7年度の運用状況では、勧告や指導の対象になった違反14,115件のうち、発注書の不備(4条明示の義務違反)が6,242件、44.2%でした。支払遅延(3,787件)の2倍近くあります(「令和7年度における取適法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組」第5表)。
この数字を見て、普段の仕事に追われていると、書類の整備までは意識が向かないのだろうな、と感じました。相手に損をさせる行為ではないのに件数が多いのは、悪気がなくても、ひな形や社内の習慣のせいで違反になってしまうからでしょう。
逆にいえば、様式を一度きちんと直しておけば、いちばん多い違反は防げます。
取適法の発注書はいつ渡す?口頭発注だけで済ませると違反
発注する側(委託事業者)は、発注したら直ちに、決められた事項を受注する側(中小受託事業者)に示さなければなりません(取適法第4条)。急ぎで電話発注したあと、発注書を出さなかったというのが、講習会テキストの違反事例の筆頭です。
口頭の依頼は、「ついでにこれも」という形で生まれがちです。Webサイトの些細な修正を、ついでに頼まれたことがあります。書面もなく、料金ももらわず、結局はボランティアのような形になりました。受ける側は、条件が書かれていないと言い出しにくいのです。
渡し方は紙でも、メールやチャットでもかまいません。ただし、相手から紙を求められたら、原則として書面を渡す必要があります。違反すると、担当者だけでなく会社にも50万円以下の罰金が科されることがあります(第14条・第16条)。
記載事項の細かな意味や電子交付のルールは、取適法 3条書面から4条書面へ|記載事項12項目・電子交付・罰則をわかりやすく解説で説明しています。
取適法の発注書・注文書の記載事項と書式例
私は取適法を学ぶまで、発注書はある程度自由に書くものだと思っていました。書く事項が法律できっちり決まっているとは、知らなかったのです。
もっとも、公正取引委員会のテキストにある注文書の書式例を見ると、思ったよりシンプルです。並んでいるのは次の欄だけで、慣れてしまえばなんてことはありません。
| 書く事項 | 書き方の注意 |
|---|---|
| 発注者と受注者の名称、発注した日 | 名称は番号や記号でも可 |
| 品名・規格・仕様など(給付の内容) | 相手が見て作業できる程度に具体的に |
| 納期・納入場所 | 具体的な日付と場所を |
| 検査完了期日 | 検査をするなら必ず。「納品後○日」でも可 |
| 代金の額 | 消費税の扱いも示すのが望ましい |
| 支払期日・支払手段 | 「毎月○日締め、翌月○日払」のような支払制度でも可 |
でんさいなどで払う場合や、原材料を有償で支給する場合は、その事項も加えます。なお、取引先と交わした契約書がこれらをすべて満たしていれば、その契約書を渡すことで足ります。
毎回同じ項目は「共通事項」にまとめられる
毎回同じになる支払方法や検査期間は、「支払方法等について」のような書面にまとめて、有効期間を書いて渡しておけば、発注のたびに書かなくてかまいません。その場合、毎回の発注書には「○年○月○日付け『支払方法等について』による」と書き添えます。
金額や仕様が決まらないときの書き方
金額が発注時に決まらないときは、「時間単価×作業時間」のような計算式を書けば足ります。
仕様がまだ固まっていないなど、本当に決められない事項があるときは、決められない理由と、決める予定の日を書いて先に発注し、決まったら直ちに補充します。決められるのに空欄にしておくことは認められません。
下請法の発注書ひな形で違反になりやすい5つの箇所
1. 支払期日が「納品後○日以内」「別途協議」になっている
書式例の注に、「納品後○日以内」は支払期日が特定されないので認められない、とはっきり書かれています。支払期日を決めていないと、受け取った日がそのまま支払期日とみなされます。
5つの中で、調べていていちばん驚いたのがこれでした。「○日以内」という書き方は自然に見えますし、受け取った日から60日の数え方も、計算を間違えそうなところです。数え方は取適法(旧下請法)の支払期日と60日ルール|数え方・例外と違反しやすい支払サイト5つ【発注者向け】をご覧ください。
2. 振込手数料を「受注者の負担」としている
相手が了解していても、振込手数料を代金から差し引くことは違反です(テキストQ&A Q99)。代金の減額に当たります。書式例のとおり、「振込手数料については、当社が負担するものとします」と書いておくのが確実です。
3. 支払手段に「手形」が残っている
取適法では、手形で代金を払うこと自体が禁止されました。でんさいなども、支払期日までに満額の現金に換えにくいものは使えません。支払条項に「手形」「サイト120日」が残っていないか確かめてください。
4. 共通事項を「別途通知のとおり」「当社規定による」で済ませている
書式例の注に、悪い例としてそのまま載っている書き方です。どの通知、どの規定のことかわからないからです。「○年○月○日付け『支払方法等について』による」のように、日付と名前で特定します。
5. 著作権の譲渡が「一切の権利は当社に帰属する」だけになっている
デザインやプログラムの発注で、著作権などの譲渡や許諾を含めるなら、その範囲を給付の内容として書き、対価を代金に含める必要があります。範囲も対価もはっきりしないまま権利を移させると、買いたたきなどに当たるおそれがあります。
趣味でイラストを描く私が受ける側に立ってみると、「一切の権利」という一文があるだけで、ひるんでしまいます。なぜ権利が必要なのか、きちんと理由と説明があれば、納得できるかもしれません。
この5つは、発注書・共通事項の書面・基本契約書の何か所にもまたがって出てくることがあります。書類どうしの食い違いまで含めた発注書・契約書の見直しも、お引き受けしています。
取適法対応の発注書に見直す4つの手順
- 取引先ごとに資本金と従業員数を確かめ、対象になる取引を洗い出す
- 誰が、いつ、何で発注しているかを書き出す(口頭発注は、現場の「追加の依頼」から生まれがち)
- 実際に出力された発注書を何枚か、上の表と照らし合わせる
- 共通事項の書面と、基本契約書の支払条項・権利の条項を突き合わせる
取適法対応の発注書の作成・見直しを行政書士に頼む場合
次のような場合は、専門家に任せたほうが早く、確実です。
- 製造・情報成果物・役務・運送など、取引の種類ごとに様式が分かれている
- 基本契約書、共通事項の書面、個別の発注書の内容が食い違っている
- 下請法のひな形を、用語だけ直して使い続けている
任せられること
行政書士は、契約書などの権利義務に関する書類の作成を業務としています。今の発注書・基本契約書のチェック、取引の種類に合わせた発注書の様式づくり、「支払方法等について」の作成、基本契約書の修正案づくりまでをお引き受けできます。
費用は、書類の数や取引の形によって変わるため、ヒアリングのあとにお見積りをお出しします。最新の料金の目安は、当事務所の契約書業務のページでご確認ください。
任せられないこと
取引先とすでに争いになっている場合の交渉や代理、公正取引委員会などの調査への対応は、弁護士の業務です。行政書士が力になれるのは、トラブルになる前に書類を整えておく段階です。
依頼の流れ
- お問い合わせ
- ヒアリング(今の発注書・基本契約書と、発注の流れをうかがいます。オンラインまたは対面)
- お見積り・ご契約
- チェックと、修正案・新しい様式の作成
- 納品(直した書式と、運用の注意点をお渡しします)
まとめ|取適法の発注書で押さえるポイント
- 取適法の違反でいちばん多いのは発注書の不備で、令和7年度は全体の44.2%
- 発注書は発注のたびに直ちに渡す。電話で頼んだときも、あとから必ず出す
- 毎回同じ項目は共通事項の書面にまとめ、金額が決まらなければ計算式を書く
- 「納品後○日以内」、振込手数料の受注者負担、手形、「別途通知のとおり」、範囲のない権利の譲渡は、古いひな形に残りやすい
発注書の見直しをご検討の方へ
発注書は、取引先に「何を、いつまでに、いくらで、いつ払うか」を約束する書類です。書くべきことを書いておくのは、取引先を守るためでもあり、あとで「言った」「言わない」にならないよう、自社を守るためでもあります。
兵庫県尼崎で行政書士事務所を開いており、全国からオンラインでご相談をお受けしています。「今の注文書のどこが足りないのか、まず見てほしい」という段階からでもかまいません。取適法に合わせた発注書・契約書の作成と見直しについて、お気軽にお問い合わせください。
取適法に悩んだら、まずは無料相談から