自社で業務システムを組んだ。何年もかけて育ててきた基幹ソフトがある。あるいは、ようやくアプリをリリースできた。
苦労して作ったものですから、きちんと守っておきたい。そう考えて「著作権登録」と検索された方に、最初にお伝えしたいことがあります。
登録しなくても、著作権はすでに発生しています。 登録は権利を取るための手続きではありません。
そのうえで、登録には別の意味があります。そして、プログラムにだけ用意された登録には6か月の期限があり、これを過ぎると申請できません。
この記事では、登録で何ができて何ができないのか、どの登録が自社のソフトに使えるのか、そして手続きと費用を順に整理します。
登録しなくても、著作権はすでにあります
著作権は、著作物を作った時点で自動的に発生します。役所への届出も、審査も、料金の支払いも要りません。これを無方式主義といいます。
特許や商標とは、ここが決定的に違います。特許は出願して審査を通らなければ権利になりませんが、著作権は何もしなくても生まれます。ですから「登録していないと権利がない」ということはありません。まずここを外さないでください。
創作物を作る側からすると無方式主義により自動的に権利が発生することで、手軽に権利を主張できると感じています。一方利用する側は、その創作物の権利者がすぐにはわからない場合もあり、そのためにトラブルになることもあります。
権利者がすぐにはわからない。この不便さを埋めるために置かれているのが、登録制度です。権利を取得するためではなく、法律上の事実を公示して、証明を楽にするためにあります。
登録しないと、どうなるのでしょうか
権利を失うことはありません。登録しなくても、著作権は有効に存在し続けます。
困るのは、争いになったときです。
ソースコードをそっくり複製されたとして、相手が「うちのほうが先に作った」と主張してきたとします。このとき、自分たちが先だったことを自力で証明しなければなりません。
これが、思っている以上に大変です。開発履歴、バックアップの日付、社内の稟議書。証拠になりそうなものをかき集めて、時系列を組み立てていく作業になります。
業種は違いますが、自分の事務所で考えてみました。書類の作成を何年何月に行ったか、備品を購入した領収書は1枚の抜けなく持っているか。証拠を積み上げるのは容易なことではありません。
日々コードを書いている開発の現場なら、なおさらではないでしょうか。SOFTICの手引きにも、こうした立証を開発者自身が行うことは「極めて面倒かつ困難」だと書かれています。制度を運用している側が、はっきりそう認めているわけです。
登録は、この面倒を先回りして減らしておく仕組みだと考えてください。
申請できるのは著作者です。自社開発なら誰になるのでしょうか
登録を申請できる人は、登録の種類ごとに決まっています。創作年月日の登録であれば、申請者は著作者です。
そこで確認しておきたいのが、自社開発の場合に著作者が誰になるのかという点です。
従業員が業務のなかで開発したソフトについては、職務著作という仕組みが働きます。要件を満たせば、開発した個人ではなく会社そのものが著作者になります。
要件は次のとおりです。
- その著作物を作る企画を立てるのが会社などの使用者であること
- 会社の職務に従事する者が創作すること
- 職務上の行為として創作されること
- 公表する場合に会社の著作名義で公表されるものであること
- 契約や就業規則に「職員を著作者とする」という定めがないこと
ここで、プログラムには特別な扱いがあります。ソフトウェアは社内で使われるだけで公表されないことも多いため、4の公表名義の要件を満たす必要がありません。
社内システムのように、外に出さないまま使い続けているソフトでも職務著作が成立する。この点は、自社開発の現場にとって心強いところです。
なお、開発の一部を外部の方に手伝ってもらっていた場合は、著作者が自社だけとは限らなくなります。申請の前に、誰が作った部分なのかを一度整理しておいてください。
プログラムだけに用意された「創作年月日の登録」
ここからが本題です。ソフトウェアには、他の著作物にはない登録が用意されています。
創作年月日を登録できるのは、プログラムだけです
プログラムの著作物の著作者は、それが創作された年月日の登録を受けることができます(著作権法第76条の2)。
調べていて一番おどろいたのが、この制度でした。創作年月日を登録できるのは、プログラムの著作物だけなのです。 イラストにも、楽曲にも、小説にも、この登録は用意されていません。
なぜプログラムだけなのか。ソフトウェアは公表されないまま社内で使われることが多く、外形的に「いつ作られたか」を示す手がかりが残りにくいからです。
私はこの条文を読んだとき、確かにそうなっていないと困るよな、と腑に落ちました。ソフトウェアが優遇されているというより、ソフトウェアには他に手立てが乏しい、ということなのでしょう。
効果は「その日に創作された」という推定です
登録すると、反証がない限り、申請書に書いた日に創作があったものと推定されます。
先ほどの「どちらが先に作ったか」という争いで、これが効いてきます。自力で時系列を立証する代わりに、登録という公的な記録を示せるようになるわけです。
未公表のソフトなら、保護期間の起算点もはっきりします
もうひとつ、地味ながら効く効果があります。
公表しないまま社内で使う法人著作のプログラムは、保護期間が創作後70年です。創作年月日を登録しておけば、この70年をいつから数えるのかが明確になります。
社内の基幹システムのように、外に出さずに長く使い続けるソフトほど、この効果は意味を持ちます。
そして、6か月の期限があります
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。
創作年月日の登録は、創作後6か月以内に申請しなければなりません。
何年も前に作ったシステムを、いまから登録しておこうということはできません。「そろそろ権利関係を整理しよう」と思い立ったときには、たいてい手遅れになっている。それがこの制度の厳しいところです。
郵送で申請する場合、受付日は書類が到達して内容に問題がないと確認された日になります。締切ぎりぎりに投函しても間に合いません。余裕をもって動いてください。
実は私は日付の計算が苦手です。それを理解しているため、日付については何度も何度も確認をします。行政の手続きなどでは、この日付の感覚が非常に大事です。仮に創作年月日の登録を受任いたしましたら、入念にチェックいたします。
もっとも、期限があるということは、いま間に合う人がいるということでもあります。開発を終えたばかりの方、リリースが目前という方は、まさにその位置にいます。この時期を逃さないでください。
創作年月日のほかに使える登録
第一発行年月日の登録(第76条)
その著作物を最初に発行または公表した年月日を登録するものです。反証がない限り、その日に発行・公表されたと推定されます。
パッケージソフトやアプリとして世に出したのであれば、こちらが使えます。6か月の期限がある創作年月日の登録とは別枠なので、両方を検討する余地があります。
実名の登録(第75条)
無名または変名で公表した著作物について、著作者が本名を登録するものです。個人名を出さずにソフトを公開している場合に関わってきます。
この登録には、ほかとは違う効果が2つあります。ひとつは、実名を登録した人が、その著作物の著作者と推定されること。もうひとつは、保護期間が公表後70年から著作者の死後70年まで延びることです。
なお、著作権を他社へ譲渡したときに使う移転の登録(第77条)という制度もありますが、自社で権利を持ち続けるのであれば出番はありません。
登録しても、得られないもの
私が制度を調べていて、いちばん誤解されやすいと感じたのがこの部分でした。期待されがちなのに、実際には得られない効果があります。ここを誤解したまま申請すると、あとでがっかりすることになります。
内容の審査はありません。 著作権の登録は形式審査です。法令に従った方式で申請されているかを確認するだけで、本当にその日に創作されたのかまでは審査しません。
文化庁も、登録されている著作物の内容には関知していないと明言しています。中身が高尚か低俗か、有益か無益かを判定する制度ではないのです。ですから「登録済み」であることは、国のお墨付きを意味しません。
創作年月日を登録しても、著作者が誰かは決まりません。 ここで推定されるのは「その日に創作された」という事実だけであって、「登録した人が著作者である」ことまでは推定されません。著作者の推定が働くのは、先ほどの実名の登録のほうです。
推定は覆ることがあります。 効果はどれも「反証がない限り」の推定です。相手方がより確かな証拠を出してくれば、推定は破られます。
そして、これは特に注意していただきたいのですが、民間業者の「著作権登録」には法的な効果がありません。
検索するとそれらしいサービスがいくつも出てきます。しかし著作権法上の効果が生じるのは、文化庁と、プログラムについてはSOFTICに登録した場合だけです。
そもそも、著作権を取得するための登録制度も、アイデアを著作物として保護するための登録制度も存在しません。アイデアそのものは著作物ではないので、著作権法では保護されないからです。この種のうたい文句を見かけたら、いったん立ち止まってください。
手続きと費用
プログラムの著作物の登録は、文化庁ではなく一般財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC)が窓口です。「プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律」により、指定登録機関として登録事務を行っています。
一般の著作物は文化庁著作権課ですが、ソフトウェアだけは提出先が違う。ここを間違えると出し直しになります。
費用は次の2つです。
登録手数料 1件47,100円。登録の種類ごと、著作物ごとにかかります。3本のプログラムを1枚の申請書でまとめて申請しても、3件分が必要です。
登録免許税 収入印紙で納めます。額は一律ではありません。 登録の種類によって変わりますし、割合で決まるものや、国・地方公共団体なら非課税というものもあります。ご自身の申請がどの種類に当たるかを決めてから、手引きの一覧表で確認してください。
初めて登録する場合は、プログラムの複製物もあわせて提出します。CD-RまたはDVD-Rに、ソースコードをテキストファイルで格納するという形式です。WordやExcelなど特定のソフトがないと開けない形式は認められず、圧縮やパスワードの設定もできません。
提出する複製物のコピーは、手元にも残しておいてください。登録したプログラムと、後日争いになったプログラムが同一であることを証明してもらう制度が令和3年から始まっており、そのときに役立ちます。
まとめ
- 著作権は作った時点で発生します。登録しなくても権利はあります
- 登録は権利を取る制度ではなく、証明を楽にする制度です
- 従業員が職務で開発したソフトは職務著作となり、会社が著作者になります。プログラムは公表名義の要件が不要です
- 創作年月日を登録できるのはプログラムだけ。他の著作物にはない制度です
- ただし創作後6か月を過ぎると申請できません。古いシステムは対象外です
- 公表しないソフトなら、保護期間70年の起算点も明確になります
- 登録は形式審査で、内容は審査されません。民間業者の登録に法的効果はありません
- 窓口は文化庁ではなくSOFTIC。手数料は1件47,100円、登録免許税は種類により異なります
いま開発が一段落したところであれば、まずカレンダーを見てください。創作した日から6か月。これが最初に確認すべき一点です。
すでに6か月を過ぎているソフトについては、創作年月日の登録は使えません。公表しているものであれば第一発行年月日の登録が残っていますので、そちらを検討してください。
著作権業務を承っています
登録の申請書類は、様式も添付資料も細かく決まっています。ここで一つ、手引きを読んでいて印象に残ったことをお伝えします。
文化庁は、申請書の作成を手伝えないと明記しています。 窓口への訪問も受け付けておらず、職員が作成を補助することもできない。自分で作ることが難しい場合は行政書士や弁護士などの専門家に依頼を検討してください、と案内されています。制度を所管する側が、そう書いているのです。
尼崎で行政書士事務所を開いています。著作権業務は、承っている業務のひとつです。
自社のソフトがどの登録を使えるのか、そもそも登録する価値があるのかというところからでも構いません。6か月の期限があるものですから、迷っている時間がいちばんもったいないとお考えください。
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参考にした主な情報源
- 著作権法(第15条、第75条、第76条、第76条の2、第77条)
- プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律(同法第2条、第4条、第25条および同施行令・施行規則)
- 一般財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC)「プログラム登録の手引き」(令和6年1月)
- 文化庁著作権課「登録の手引き ─ 著作権に関する登録をお考えの方へ」(令和5年4月)
- 文化庁著作権課「初めて登録申請される方へ」
※法令および制度の内容は変更されることがあります。手数料および登録免許税の額を含め、実際のお手続きの前に最新の情報をご確認ください。